【及川徹】0キロメートルの愛 2nd【番外編】

またね／またな２ ページ6

▲▼黒尾 side


A ｢じゃっ、お疲れ〜っす｣

黒尾｢おいコラ待て｣


仕事が終わった途端、また明日みたいなノリで立ち去ろうとするAにそうはさせるかと肩をむんずと掴んで引き止めた。


黒尾｢メシ食いに行かね？｣

A｢…これ以上は契約時間外ですしお寿司｣

黒尾｢寿司？お前が寿司行きたいなら寿司行くか｣

A｢あっあああの…そういうワケじゃなくって、いやでも寿司食いたい気持ちはマウンテンマウンテンなんだけども…｣


どもって視線をあちこちに飛ばしまくる挙動不審なAは明らかに困っていたけれど、そこに拒絶してる様子は見られない。


黒尾｢マウンテンマウンテンって未だに使ってんだな。布教しようとしても流行んねぇんだからいい加減諦めろって｣

A｢ちげーし。私の標準語だし｣


Aの性格上、本当に嫌だったのなら跳ね除けて立ち去っているはず。でもそうしないっていうことは、まだ俺と一緒にいたいということの表れでーー、

ダメだ。淡い期待すんな。こいつは既婚者だ。落ち着け。


黒尾｢なぁ、A。…接待も仕事の内、って社会のルール知ってるか？｣

A｢セクハラ｣

黒尾｢雇い主に何てこと言いやがんだよ｣

A｢いや、自分通訳料一銭も貰ってないんで｣

黒尾｢お前がそうさせなかったんだろ。…つーか、ホントにここで、はいサヨナラ〜でいいのか？お前にとっての俺ってそんなモン？積もる話もあると思うんですケド？｣


しっかりと化粧の施された顔を葛藤するように歪めるAは、あの頃のボサボサ頭に万年ジャージで俺の隣を歩いていた時と何ら変わりなくて、思わず笑ってしまう。


A｢ぐぬぬ…そうやって丸め込もうとしてくるとこ、変わってない｣

黒尾｢簡単に丸め込められるお前も変わってねーな｣


ニヤリと口の端を引いて笑うと、Aは悔しそうに口を尖らせた。


黒尾｢そんな身構えんなって。べつに二人きりでって言ってるワケじゃねぇんだから｣

A｢…じゃあ同行してた後輩くんを、｣

黒尾｢ああ、彼女とデートみたいで直帰したわ｣

A｢んーと…あ！研磨くんは、｣

黒尾｢研磨は今日忙しいから無理｣

A｢チッ…岩泉も仕事忙しいしな…｣

黒尾｢俺は二人でもいいんだけどー？｣


Aは額に手をやりながら必死に思考を巡らせる。それからぱっと表情を明るくさせると、スーツのポケットからスマホを取り出した。


A｢…ちょっと待って。友達呼ぶから｣

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