【及川徹】0キロメートルの愛 2nd【番外編】

桜の下で待ち合わせよう７ ページ45

俺達と二つ歳が離れた真夜ちゃんの話が出たことで、Aちゃんが中学三年生なんだということが分かる。
目の前にいるのは、俺と出逢う頃から三年前のキミだ。


A｢目的がない勉強って、何でしてんのか分かんない｣


Aちゃんはスカートのポケットの中に手を入れると、そこから折り畳まれた白い紙を取り出した。四つ折りされた用紙を広げて、悩むような顔を浮かべるAちゃんに、俺は首を傾げながら用紙を覗き込む。


及川｢えっ！？白鳥沢！？｣


紙の上、並んだ文字に思わず声を上げてしまう。

Aちゃんの手元、進路希望調査票の第一志望欄には、因縁の“私立白鳥沢学園高校”と書かれていた。一方、俺達の母校の名はどこにも書かれてはいない。


A｢…え？ここ行くつもりで勉強してるけど｣

及川｢何で！？｣

A｢偏差値トップクラスじゃん｣

及川｢スポーツクラスはそれほど高くないよ！！｣

A｢私一般クラスだし｣


うぐっと俺は押し黙る。

確かに白鳥沢の一般クラスは県内屈指のトップクラスだけど、知らなかったよ！！Aちゃんが白鳥沢考えてたなんて聞いてない！！ひと言も！！


A｢…でもさ、これでいいのかなーって思っちゃってて、成績が良ければ選択肢は広がって、好きなことが見つかった時にちゃんと選べるんだぞーとか、先生には言われたけど…｣


Aちゃんは進路希望調査票を持つ手にくしゃりと力を込める。


A｢私には夢なんてないし、これからも見つかる気なんてしないもん｣

及川｢…人生まだまだこれからなのに悲観的だねえ｣

A｢ウザい？｣

及川｢ううん、可愛い。守ってあげたくなっちゃう｣

A｢…えっキモっ｣

及川｢え！？俺キモい！？｣

A｢…おじさんロリコン？｣

及川｢ちっ、違うよ！！断じて違うから！！｣


慌てて弁解しようとする俺のことをAちゃんは訝しげに見つめる。けれど、すぐにその表情を解きほぐすと、声上げて笑った。


A｢おじさん必死すぎてウケる！！｣


…無垢な笑顔。出逢った頃から惹かれていた明るい、キミの心からの笑顔。

“みんなが褒めてくれるのが嬉しかったから勉強を頑張った“。“学級委員や委員長や生徒会長に選ばれると嬉しかったし、誇らしかったから頑張った“。

ーーそう、高三の頃、Aちゃんは泣きながら俺に過去のことを打ち明けてくれたよね。


及川｢周りに期待されたりさ、頼られることってさ、嬉しいし誇らしいよね｣

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