桜の下で待ち合わせよう ページ39
ーー11月。アルゼンチンでは春から夏に移り変わろうとするこの時期、俺達は毎年欠かさずにそこに足を運んでいた。
レイ「オレいっちばーーーん!!」
A「ママにばーーーん!!」
世界三大美木と呼ばれる、薄紫色の花を咲かせるハカランダ。こっちの地方では日本で言う桜みたいなもので、今年も綺麗に咲き誇り、俺達を出迎えてくれた。
及川「もー!そんなに走ると危ないよー!」
ハカランダ並木を走っていく息子と嫁さんに窘める声を上げながらも、幸せにふっと笑みが溢れた。
小走りに二人の後を追おうとしたその時ーー、
ぶわあっと大きな風が吹き、足元がよろけた。揺すぶられるような激しい風は、ハカランダの花を巻き上げる。
及川「ーーレイ!!Aちゃん!!」
数メートル先の二人の背中に手を伸ばした瞬間、辺り一面がハカランダの花びらに埋め尽くされた。
ーーどこを見ても、360度、薄紫色の世界。花びらは俺を取囲むようにぐるぐると回る。
及川「な、にこれ…?」
ありえない現象に困惑しながらも、二人が心配で闇雲に花びらの渦に手を突っ込んで掻き分けた。
どうしよう。もし二人に何かあったら。助けに行かなくちゃ。早く。早くーー、
こつん。何か冷たく硬いものに手の爪先が触れた。恐る恐る指でなぞり、それからぎゅっと強く握った。
ーーその瞬間、ぱっと視界から薄紫が消えた。
及川「え……?」
目の前にあるのは、ハカランダ並木ではない。白いドアがひとつ。後ろを振り向くと、下に降りる階段があった。
リノリウムの床や、階下から聞こえてくる楽しげな喧騒の声は、どこか懐かしい場所を思い起こさせる。
俺が握っているのは、目の前に重く構える白いドアの、そのドアノブだった。
何これ…?一体どこなの…?さっきまで俺、外を歩いてたはずだよね…?
あんなに舞っていた花びらは一枚すら見つからないし、もう何が起きているのか分からない。
及川「…夢でも見てんのかな」
額に手をやったその時、微かな声が耳を掠めた。
ドア越しに聞こえてくる、女の子のすすり泣く声。それはどこか知っているような、聞いた事のあるような声だった。
俺は何かに惹かれるようにドアノブを握り直す。それから、ぐるりと回して重いドアを押し開いた。
ふわり。生温い風が吹き、頬を撫でる。
俺の視界に広がったのは、清々しい程の青空。そしてーー、
A「…っ、うっ…、ひっく…、」
泣きじゃくる、セーラー服姿の一人の少女だった。
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スナック杏月(プロフ) - ゆんさん» ゆんさんいつもコメントありがとうございます!そして最後まで見届けて頂き本当に励みになりました!私もほっとしたような寂しいような心境です😢国見ちゃん×後輩ちゃん話でも最後まで飽きずに着いてきて頂けるようなお話を丁寧に綴っていけたらと思います🥰 (2023年1月28日 0時) (レス) id: 011dd4e45f (このIDを非表示/違反報告)
ゆん(プロフ) - あぁぁ😭ついに一番好きなシリーズが完結してしまった😭💕嬉しいような寂しいような、、、でも次の国見ちゃんの話を楽しみに生きていきます🥺 (2023年1月27日 0時) (レス) id: d0dd043faf (このIDを非表示/違反報告)
スナック杏月(プロフ) - なぅさん» 遅れあけましておめでとう!今年はまったりと執筆していくので気長にお付き合いよろしくね🥲 (2023年1月12日 12時) (レス) id: 011dd4e45f (このIDを非表示/違反報告)
なぅ(プロフ) - 𝐻𝑎𝑝𝑝𝑦 𝑁𝑒𝑤 𝑌𝑒𝑎𝑟☆占い師及川愛す𝐟𝐨𝐫𝐞𝐯𝐞𝐫☆ (2023年1月2日 1時) (レス) @page43 id: 061659d46e (このIDを非表示/違反報告)
スナック杏月(プロフ) - おもちさん» おもちさんお久しぶりです!私も長らく占ツクを離れており、最近執筆再開をしました😢おかえりなさい!素敵な作品が多い中最初に開いてくれて嬉しいです😭温めてきた二人のお話を最後まで丁寧に綴っていきますので最後までお見届けよろしくお願いします! (2022年12月24日 2時) (レス) id: 011dd4e45f (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:スナック杏月 | 作成日時:2022年4月7日 1時