0キロメートルの愛7 ページ4
暖かい友人に見送られ、搭乗口を抜けて飛行機に乗り込んだその時、胸に隙間風のようなものがひんやりと吹き込んだ心地がして、急にぶるりと身体が震えた。
これからは、今までとはまるで違う景色が私を待ち受けている。“留学生”の肩書きなんて無い。“私”としてあの地へと立つんだ。日本で当たり前だった常識はもう、通用しない。
A「どれだけ怖かった…?」
隣の座席に座る徹に問いかける自分の声は、弾かれた弦のように震えていた。
…今、ようやく分かった。
あの頃、徹はこんな気持ち…いや、違う。あの時の徹はまだ17歳だった。そして、今の私のように語学の知識が充分だったわけじゃない。抱える不安はそれ以上だった。
A「…ずっと怖かったでしょ?」
自分の夢へと追いかける徹はキラキラと輝いていた。それがあまりにも眩しくて、私は気が付かなかった。
A「徹は…一人でどれだけ不安だった…?」
その身一つで海外へと飛び込んだ徹はどれだけ怖かった?慣れない土地でどれだけの孤独と戦ってきた?
A「私は自分のことばかり考えて、」
及川「そんなことない。ずっと俺は、Aちゃんに支えられてた」
膝の上できゅっと結んでいた私の手に、徹の手が重ねられた。
何か大事な気持ちを伝える時、こうして徹は私の手を握る。高校生の頃から変わってない。
及川「Aちゃんが俺と一緒にいられる未来を望み続けてくれてたから…だから俺は頑張れたんだ」
徹は微笑んでいた。もうこれ以上満足することなんて、絶対にできっこないというみたいに。
及川「これから先も傷つかないなんてことは絶対に無理。またどこかで躓く日はやってくる。…俺はさ、その度に、これで本当にいいのかな?正しく進めてるのかな?って、Aちゃんと確認しながらこの先をずーっと歩いていきたいと思ってる」
A「…ずーっと?病める時も?健やかなる時も?」
及川「ふふ、それ結婚式みたいだよ」
でもいいね、それ。
溢れるようにして笑う徹に、胸がきゅっと締め付けられた。
私はこの人を幸せにしたい。この人と幸せになりたい。病める時も健やかなる時も。
及川「愛してるよ、Aちゃん」
ーー約束は果たされた。
さよなら、日本。たくさんの人を愛した。たくさんの人に愛された。
決して色褪せることのない22年間を私は胸に抱いていく。
A「私も愛してるよ」
今ここに、貴方との間にあるのは、0キロメートルの愛。
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スナック杏月(プロフ) - ゆんさん» ゆんさんいつもコメントありがとうございます!そして最後まで見届けて頂き本当に励みになりました!私もほっとしたような寂しいような心境です😢国見ちゃん×後輩ちゃん話でも最後まで飽きずに着いてきて頂けるようなお話を丁寧に綴っていけたらと思います🥰 (2023年1月28日 0時) (レス) id: 011dd4e45f (このIDを非表示/違反報告)
ゆん(プロフ) - あぁぁ😭ついに一番好きなシリーズが完結してしまった😭💕嬉しいような寂しいような、、、でも次の国見ちゃんの話を楽しみに生きていきます🥺 (2023年1月27日 0時) (レス) id: d0dd043faf (このIDを非表示/違反報告)
スナック杏月(プロフ) - なぅさん» 遅れあけましておめでとう!今年はまったりと執筆していくので気長にお付き合いよろしくね🥲 (2023年1月12日 12時) (レス) id: 011dd4e45f (このIDを非表示/違反報告)
なぅ(プロフ) - 𝐻𝑎𝑝𝑝𝑦 𝑁𝑒𝑤 𝑌𝑒𝑎𝑟☆占い師及川愛す𝐟𝐨𝐫𝐞𝐯𝐞𝐫☆ (2023年1月2日 1時) (レス) @page43 id: 061659d46e (このIDを非表示/違反報告)
スナック杏月(プロフ) - おもちさん» おもちさんお久しぶりです!私も長らく占ツクを離れており、最近執筆再開をしました😢おかえりなさい!素敵な作品が多い中最初に開いてくれて嬉しいです😭温めてきた二人のお話を最後まで丁寧に綴っていきますので最後までお見届けよろしくお願いします! (2022年12月24日 2時) (レス) id: 011dd4e45f (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:スナック杏月 | 作成日時:2022年4月7日 1時