【及川徹落ち】18000キロメートルの恋 2nd【黒尾鉄朗】

すげー可愛い ページ34

▲▼黒尾 side


目的地に向かう地下鉄のホームの中、隣で電車を待つAにそっと視線を向ける。

メイクで彩られた顔。
器用に編み込まれてハーフアップにされた髪。
地下鉄の風が吹く度に揺れるスカートに、少しだけヒールのある靴。

普段よりぐっと女らしいAに、柄にもなく緊張する。


A｢ん？何？｣


俺の視線に気がついたAが不思議そうに首を傾げて、胸がドキッと鳴る。
咄嗟に口元に手を当てた。

…やべーな。
思いの外可愛すぎて。


A｢え、どうした！？気分悪い！？｣


盛大な勘違いをしたAが慌てて俺の背中を摩った。
それからバッグの中を漁ると、中に何か入っていたポーチを空にして、それを俺の前に突き出した。


A｢我慢できなかったらここに吐いていいよ！｣

黒尾｢………ぶっ、｣


必死な顔をしているAに一拍遅れてから吹き出した。
耐えきれずに笑い声をあげると、Aは顔をきょとんとさせていた。


A｢…気分悪いんじゃなかったの？｣

黒尾｢全然平気｣

A｢何だよ…びっくりしたわ…｣


Aは拍子抜けしたような顔をして、それからポーチをごそごそとバッグに戻す。

その横顔を見つめながら、さっきのAの咄嗟の行動を見て、カフェでのこいつの振る舞いを思い出した。
店内で泣く赤ん坊に即席でおもちゃを作って渡す姿。
薬を飲もうとしていた客に気がついて常温の水をサラッと出す姿。

咄嗟の時って、そいつの計算のない行動が出ると思う。
行動できるから良いとか、行動できないから悪いとかって話ではない。
そういうヤツなんだ、こいつはこういうスタイルで生きてきたんだ…って分かる。

そんで、惹かれる。
迷わず手を差し伸べられるその真っ直ぐさに。


黒尾｢…A｣

A｢んー？｣


Aはバッグに視線を向けたままでこっちを見ない。

けど、それに構わずに言った。


黒尾｢今日すげー可愛い。似合ってる｣


こいつが好きだ。俺は。
…どうしようもなく。

Aは驚いたように俺に顔を向けた。
それから、くるんと上向きにカールさせられた睫毛をぱちぱちと瞬かせると、ふにゃりと気が抜けたような笑い方をした。


A｢ありがとー｣

黒尾｢…っ、｣


胸がキュンと締め付けられる。

この笑顔が自分だけの物になればいいのに、と深く思った。

…と同時に、こんな彼女を日本に残して海外に渡ったイケメン彼氏のことが理解不能だった。

真っ先に思い浮かぶのはいつも→←お礼は身体で払えよ

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