【国見英】賽は遥か遠くにぶん投げる 2nd【青城】

鉄板で焼かれろ ページ9

▲▼国見 side


国見｢…花火に願い事とか叶わなさそうですけど。花火って呆気ないし跡形もないじゃないですか｣

朝陽｢うっ、｣

国見｢残るのは、終わった後に転がった黒い燃えカスだけですよ｣

朝陽｢がっ、｣

国見｢ていうか願うより自分でどうにかしたらいいんじゃないですか｣

朝陽｢ぐっ、ド正論の嵐…｣

A｢ちょっと、アンタ何朝陽先輩の事いじめてんの？｣


朝陽先輩が大袈裟によろめいて近くの木に手をやりながら俯いた瞬間、Aが俺達の間に割って入ってきて、朝陽先輩を庇うようにして立った。


国見｢いじめてないけど｣

A｢嘘。絶対アンタが何か言ったから朝陽先輩がこんなに落ち込んで、｣

及川｢朝陽ちゃんたこ焼き食べるー？｣

朝陽｢食うー！！｣


及川さんの呼びかけに身を翻す朝陽先輩の背中をAは黙って見送ると、何事もなかったかのように買ったばかりらしいチョコバナナをかじろうとする。
俺はAの手からひょいとチョコバナナを奪うと、迷いなく大きな口でがぶりと食いついた。


A｢ねぇ、私のなんだけど｣

国見｢りんご飴の方がいいわ｣

A｢だったら盗らないでくれる…？｣

国見｢ん、金。りんご飴代｣


チョコバナナを全部食べ切ってAにすっと手のひらを差し出して催促すると、Aは怒りにわなわなと身体を震わせた。


A｢…何で私が？その出した手今すぐ引っ込めないと反対側に折り曲げるから｣

国見｢サイコ女｣

A｢泥棒。チョコバナナ返して｣

国見｢…吐いたのが欲しいとか引くんだけど｣

A｢今すぐ鉄板で焼かれろバカ！！｣


Aは焼きそばの屋台を指さしながらブチ切れると、高ぶった気持ちを落ち着けるようにして深く息をついた。

アンタといると腸煮えくり返るわ。
そう零すAにこっちのセリフだと返していると、ふと俺の顔を見つめたAが手に持っていた巾着の口を緩めた。


A｢チョコ付いてる｣


Aは取り出したハンカチをすっと俺の口の端へと宛がい、優しく拭いとった。
ほら取れた。
小さく微笑むAを前に、俺は目を丸くしたまま、何も言わずに固まる他なかった。


A｢あ、ごめん。朝陽先輩にやるクセで…｣


はっとしてAはそう言うと、朝陽先輩に呼ばれて、はぁい、と甘ったるい声を出して歩いて行った。


国見｢…あっつい｣


暑さのせいではない、篭った熱を冷ますように一人、パタパタと手で顔を扇いだ。

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