クズから這い上がれ ページ23
それまで流れていた時間が止まり、周りが透明になるような心地がした。私との距離を詰めた岩泉くんの目が、慕い寄るように瞳の中に飛び込んでくる。
岩泉「初めて電車ん中で見かけた時から、綺麗だって思ってた」
その強い口調に、恋しさが焼くように胸に迫って、私は岩泉くんから視線を逸らす。
A「岩泉くんはおかしい」
岩泉「んなことねーよ。…及川の言う通り、お前は自分に自信がねえな」
A「…及川くんそんなこと言ってたんだ」
最後に言葉を交わした時の及川くんを思い返しながら、独り言のようにぽつりと呟く。
しつこい岩泉くんと違って、及川くんは私を見限った。もうこのまま、彼と話す日はきっとやって来ない。
岩泉「…あのな、及川もお前のこと心配してる」
素直じゃねえけどな、と付け加える岩泉くんに、私は丸くさせた瞳を数回瞬かせた。
岩泉「お前は一人じゃねえよ。どこまで落ちたって、俺らはお前を助けてやる」
ーーそんなの望んでない。
なんて、咄嗟には言えなかった。悲しくも苦しくもないのに、鼻の奥がつんと痺れて、目頭が熱くて、私は堪えるようにぎゅっと瞳を固く閉ざした。
▲▼
先生「ーーじゃあ次な」
現国教師の声で、周囲のクラスメイト達から教科書のページを捲る音がして、一拍遅れてから私も次を開く。教科書の上に並ぶ字を目で追うが、そこに書かれている内容は頭に入ってこない。集中力はゼロに等しかった。
ぼうっと教科書を読むでもなく眺めていると、ふと、空いたスペースに落書きを見つけ、私は小さく目を見開く。
そこに描かれていたのは、女の子の絵だった。髪型、顔のパーツの特徴は私とよく似ている。そして、その女の子に向けて書かれた矢印マークと“クズ“の二文字。
ーー“そういえば、これ及川に貸してた?“
花巻くんからこの教科書を返してもらった時、言われた言葉。その続きを理解する。
全く似ていない、及川くんが描いた私らしい似顔絵の上をそっと指先でなぞる。
…下手くそ。もっと可愛く書いてよ。
涙ぐみそうになり、唇を噛み締める。
及川くんと友達になる前は、毎日空っぽで、独りだった。あの自販機の前のベンチで隣り合って及川くんと話す、昼休みの時間が私の救いだった。
似顔絵の下、もう一つ並んだ綺麗な及川くんの筆跡に、眼が熱くなった。
ーー“クズから這い上がれ”
A「…無理だよ、もう」
ぽつり。呟きながら、教科書の上に一粒だけ涙が零れ落ちた。
135人がお気に入り
感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
スナック杏月(プロフ) - なぅさん» すみません😭お久しぶりでございます😭冬は眠くて書く時間に費やしてた時間が睡眠時間になってた😭眠れる森の美女だった😭王子様はいなかったから自力で起きた😭 (2023年2月22日 22時) (レス) id: 011dd4e45f (このIDを非表示/違反報告)
なぅ(プロフ) - 生きてた...?杏月ちゃんあなた生きていたの...? (2023年2月22日 22時) (レス) id: 061659d46e (このIDを非表示/違反報告)
スナック杏月(プロフ) - フェアリーさん» いつもコメントありがとうございます🥰及川さんはファンが多くて、岩ちゃんはガチ恋が多いと予想してますねぇ🤔あんな男前惚れないはずがない!!(岩ちゃん推し)次回も楽しみにして頂けると幸いです! (2023年2月6日 19時) (レス) @page22 id: 011dd4e45f (このIDを非表示/違反報告)
フェアリー(プロフ) - 岩泉「ーー綺麗だよ、お前は」は反則だろ・・・それで何人の女を落としてきたんだ岩泉!!(( (2023年2月6日 13時) (レス) @page22 id: ebc545326a (このIDを非表示/違反報告)
スナック杏月(プロフ) - Komachiさん» こまっちゃんお久しぶり!!嬉しいよう😭旅に出て帰ってきたわ🥲前よりもペース緩めて執筆していこう思うよ…ありがとう🥹🫶 (2023年1月18日 1時) (レス) id: 011dd4e45f (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名:スナック杏月 | 作成日時:2021年12月2日 14時