【岩泉一】恋に恋するクズですが何か？2nd【青城】

逃避を恥じる必要はない ページ2

はやる胸を抑えるように一つ息を吸い込む。それから、岡崎くんに尋ねた。


A｢私のことはいつ見抜いたの？｣


ああ…やっぱりそこが一番気になるよね。
岡崎くんはヘラリと笑うと、忠告をするようにして私に言った。


岡崎｢人に聞かれたらマズいことは、もっと徹底して場所選んでから話した方がいいよ｣

A｢…盗み聞きしてたの？いつ？どこで？｣

岡崎｢やだなぁ…べつに盗み聞きしたわけじゃないよ。たまたま及川とAちゃんの会話を聞いちゃっただけ｣

A｢たまたま？｣

岡崎｢俺、昼休みは大抵保健室で寝てるんだよね｣

A｢…それが何、｣


言葉の途中で気がついて、口を噤む。
私達がたまり場にしてるあそこのすぐそばは保健室。これ以上は聞くことは不必要だ。

でもまさか、聞こえているだなんて思わなかった。徹底してきたはずだったのに、軽率だった。


岡崎｢いつもいつも、Aちゃんの話を聞けば聞くほど、嬉しくて仕方がなかったよ。ああ、やっと俺と同じ子を見つけたって｣


岡崎くんは言いながら、うっとりと恍惚の表情を浮かべ、幸福感に満たされるように目を細めていた。


A｢…私が岡崎くんをターゲットにして擦り寄ってた時、もう私の本性知ってたってこと？｣

岡崎｢そう。あの時のAちゃんって、男に見境なかったよねぇ。お陰で周りチョロチョロしてたら、Aちゃんの方からアクション起こしてくれてさぁ、｣

A｢…演技でチョロくてつまんない男演じてたんだ？｣

岡崎｢うん。騙し合いっこは、俺の方が一枚うわ手だったね｣


ーー“食い散らかすにしても、相手はちゃんと選んだ方がいい“。


ターゲットをこの人だと決めず、片っ端から落としては捨ててを繰り返していたあの時に及川くんに言われた言葉が頭の中をぐるりと巡る。


岡崎｢逃避ってさ、いいよね。辛い現実を忘れさせてくれる｣

A｢…え？｣

岡崎｢Aちゃんはさ、愛されてるっていう快楽に浸ってたよね。…最近は、岩泉に何吹き込まれたのか、無理して真っ当に振る舞おうとしてるけど｣

A｢ちょっと、やめてよ。吹き込まれたとか…私は無理なんか、｣

岡崎｢ーーAちゃん｣


岡崎くんが席を立つ。私のそばにやってくると、説き伏せるようにして両肩に手を置いた。


岡崎｢逃避することを恥じる必要なんて無い｣


岡崎くんの私を見つめるその瞳は、心の縁をそっと撫でるような柔らさを携えていた。

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