06.行ってらっしゃい ページ6
「行ってくるね」
「きーつけて」
廉の声を背に靴を履く。振り返れば廉がひらひらと手を振っている。
「どした?はよ行かんと遅刻するよ」
「…、」
「…大丈夫、いなくならないよ」
不安そうな顔でもしてたのだろうか。私の言いたいことを瞬時に察知して、困ったように笑う。
私も困ったように笑って、「行ってきます」とドアを開ける。
行ってらっしゃいと言う廉の声を聞いて、また目頭が熱くなってしまった。
電車に乗りながら、昨日のことを思い出す。
あの後、課題が残っていた私の隣に引っ付いてパソコンを覗き込み物珍しそうに見ていたり、
飽きたのかと思えば部屋を物色し始め、私の下着を見つけて茶化したり、
課題が終わって寝ようとしたら当たり前のように寝室についてきて、一緒に寝た。制服で寝るのは嫌だと言うから、私の中で一番大きい服を貸して。
高校生の時の付き合い方なんて、今と比べたらそこまで自由ではなくて。お泊まりこそ限られた時にしか出来なかったけど、懐かしかった。
隣で廉が寝ている感覚。体温こそ感じなかったけど、自分の腕を枕にして寝ている、綺麗な寝顔。
「寝不足?」
「おはよ。寝不足気味かも」
「まぁ、そっか」
大学の最寄りに着いて改札を出た瞬間に後ろから声を掛けられる。高校からの友達。私も、廉も。
「オレも今日会ったよ、夢でだけど」
「廉と?」
「うん、Aと廉とオレで3人デートしてた」
マフラーに顔を埋める。それは夢だけど、夢じゃなくて思い出だね、と言いそうになるのを抑える。
「楽しそうだね」
楽しかったよ。3人で放課後に遊びに行ったり、廉だけが違うクラスになって怒ってたり、私よりも廉の彼女ポジにいる海人に嫉妬したり。
全部思い出になって、もう新しい思い出ができることはないけど。
「てか、そろそろテストだけどマジやばいからAんち行っていい?」
「え、あ、あの」
「まじ毎回申し訳ないけど、今回もお願いします!」
パチンと顔の前で手を合わせる海人。毎回テスト前になると私の家で一緒に勉強をして、そのまま学校へ行くのがお決まりになっていた。もちろん、海人はオールコース。
「今日は、厳しいかも…」
「あ、まじ?」
「明日、とかは?」
「じゃあ、明日!!!」
廉になんて言おう。怒るかな、海人を家に連れ込んで。
なんて、怒るわけないか。別れてるんだし。
*
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作者名:みう | 作成日時:2023年12月5日 21時