19.なかなおり ページ19
｢Aちゃんの所に、謝りに、行ったんだと思う｣
グッと握り締められている平野くんの両手。小刻みに震えている。
｢一緒に、ケーキ買いに行った。…廉の性格だからAちゃんにとは言ってなかったけど、…女子が好きなやつはどれって聞かれたから、｣
｢……、｣
｢これ、Aちゃんに渡してくれって、…廉の親が、｣
平野くんから手渡された、テレビや雑誌で最近よく取り上げられているケーキ屋の袋。
｢事故に巻き込まれ無かったみたいで、綺麗な状態だから、渡してくれって頼まれた。…多分、廉はこれをAちゃんに渡して仲直りしたかったんだと思う、｣
仲直りなんていつでもできたよ。怒ってなかったよ、拗ねてただけだから、電話でよかったんだよ。週明け、無かったことにして普通に｢おはよう｣って言ってくれれば、それだけでよかったよ。
声を上げて泣く私と海人の姿を見て、平野くんも静かに泣いた。人生で1番、感情がなくなった日だった。
・
・
廉のお通夜。高校の同級生はもちろん、私の知らない廉の友達が、廉を想って参列している。
｢Aちゃん、｣
廉のご両親にご挨拶に行くと、お母さんは涙目になりながら｢こんな事になって、ごめんね｣と謝った。
｢私が、悪いんです、私が、｣
｢違う、Aちゃんは悪くない。きっとそう思われることを、廉は1番望んでないから。…自分のこと、責めないでね｣
私が悪い。私が拗ねたりなんかしなければ、私から謝っていれば、廉は事故に巻き込まれずに済んだから。
｢Aちゃんと出会って、毎日楽しそうだった。周りのお友達と遊んだ日も楽しそうだったけど、Aちゃんといた日はすぐ分かるくらい上機嫌で、…幸せそうで、…｣
｢っ、…｣
｢廉のこと、好きになってくれて、ありがとう｣
涙ながらにそう言ってくれた廉のお母さん。隣に寄り添うお父さんと、まだ小さい弟。廉を想って涙を流す人たち。
沢山の人に愛されていた廉を、みんなから奪ってしまった。その考えは、いつまで経っても消えなかった。
廉のお母さんが教えてくれた。廉が庇った男の子は、軽傷で助かったと。
｢誇りに思う｣と言った廉のお父さんの顔が、忘れられなかった。
高校3年生の春。新学期が始まり、桜が散り始めていた。
私は、廉を失った。
*
続く
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作者名：みう
| 作成日時：2023年12月5日 21時
