15.いちばん ページ15
｢あ、こっちなんだ！俺いつもここ左に曲がるんだよね！｣
｢でも、意外と家近いかもしれないです(笑)｣
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あの後、話しながら歩き始めた岸さんの後を追えば、自然の流れのように私の家に向かっていて。
話の終わりかけ、申し訳なさそうに｢これって…｣と口を開いた私に、
なんでも無さそうに｢あれAちゃんちってこっちの方で合ってる？俺なんも聞かずにコッチ歩き出しちゃったけど｣と答えた岸さん。
送って貰わなくても、と遠慮をしそうになったけど、何だか楽しそうにさっきの飲み会の話をしている岸さんを見て言うのはやめた。
ずっと前、高校生だった私と廉。学校からの帰り道で送ってくれる廉に遠慮する私。
廉は｢オレがしたいからしてることには甘えとけばいーの｣と言われたことがある。
｢…Aちゃん？｣
｢あ、すみません。ボーっとしてました｣
｢だよね！俺今めっちゃ面白いこと言ったのに笑って貰えなくて焦ったわ｣
｢ごめんなさい、もう1回お願いします｣
｢言いづら！！！！｣
人が寝静まる時間。岸さんと私の声が響く。出会って少ししか経っていないし、まだまだ関係性も深くはなってないけど、
岸さんと話しているとなんだか心が暖かくなる。
｢ここです。送ってくれてありがとうございました｣
｢全然！寧ろ酔っ払いに付き合ってくれてありがと！｣
｢岸さんも気をつけて帰ってくださいね｣
家の前。歩いてる時は横並びで見れなかった岸さんの顔を、向かい合ったことによって改めて見る。
ふわふわ、にこにこの笑顔。笑った時に覗く犬歯が可愛いと思った。
｢おやすみ｣と手を振りながら来た道を戻っていく岸さんの背中を見送って、外から見える自分の部屋に視線を移した。
｢…！｣
今度は岸さんじゃない。私の大好きな人が手を振っている。
｢どしたん走って｣
｢怖いよユーレイみたいなのやめてよ！｣
｢ただいまやろそこは｣
｢ただいま！ビックリしたじゃん、見たら手振ってるから一瞬ユーレイかと思って心臓止まった！｣
｢ユーレイなんだわ、オレ｣
ハハハ、と笑いながら私を迎えてくれる廉。やめてなんて言っておきながら、帰ったら廉がいることが、今の私のいちばんのしあわせだった。
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作者名：みう
| 作成日時：2023年12月5日 21時
