14.アルコール ページ14
｢お先に失礼します｣
｢うん、今日もありがとね。夜道暗いから気をつけて｣
ジンさんが外まで見送ってくれる。22:30、バイト終わり。
あれから、廉とは何も無い。何も変わらなかった。
アルコールの限界で気が付いたらベッドの上で、廉はいつもと変わらず私の横ですやすやと眠っていた。
気まずくなるかと思いきや、｢おはよー｣なんて間抜けな声。忘れて、夢だと思った方がお互いいいんじゃないかとも思った。
｢あ、｣
家に向かうべく、駅から離れようとそそくさ歩いていると、何だか見たことがある姿。
大人数の輪の中に囲まれている人を、私は知っていた。
｢いやまじ、ごちそうさまっス！｣
｢大丈夫、何年後かにオマエに数倍にして返して貰うから｣
｢いやいやいや、マジ怖いっス｣
店の灯りと街灯でよく見える。スーツ姿に、ちょっとだけ赤くなった顔。周りの人を見ても、どうやら相当お酒を飲んだみたい。
私には関係ないかと思いながら、その輪を通り過ぎる。ガヤガヤとまだ笑い声が、私の後ろから聞こえた。
｢Aちゃん？？｣
数歩過ぎたあたりで、輪から顔を出した岸さんが大きな手のひらをヒラヒラと振る。
周りの人間は、どう見ても年下の私の姿を見て関係を探るべく、私と岸さんの顔を行ったり来たり。
｢サッセン、自分ここで抜けます！また来週よろしくオネシャス、！！｣
かき分けるように輪から抜けると、小走りでこちらに向かってくる。一瞬の出来事だった。
｢やっぱAちゃんだ！バイト終わり？｣
｢こんばんは。そうです、岸さんは、…｣
｢あ、見ての通りです(笑)ちょっと調子乗っちゃいました｣
アルコールが回って赤くなった顔にとろんとした声と瞳。
困ったようにおでこに手を当てる岸さん。悪いなんて言っていないのに、何だかバツが悪そうな顔を見せた。
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作者名：みう
| 作成日時：2023年12月5日 21時
