13.クセ ページ13
「遅かったやん」
玄関を開けると、そこには廉の姿。玄関までお迎えは初めてだった。
「ただいま。遅くなってごめんね」
「いや、いいけど…酒臭くない?」
「んーごめん。ちょっとだけ飲んじゃった」
あの後、久しぶりに会えたからと貸切にして、
少しだけ飲んだ平野くんと、乗せられて3杯飲んだ岸さんはもうベロベロで。
強いのはジンさんだけで、酔いが回ったのか「ひとりで飲んでもつまらない!Aちゃんも飲んで!」と言われ、少し飲んでしまった。
「おふろはいってくる、」
普段から飲む訳では無いから、久し振りのアルコールにクラクラする。今にでも寝そうだけど、お風呂に入らないままベッドなんて、廉にこっぴどく叱られる。
「いや、取り敢えず1回休んで」
「んー、でも寝ちゃいそうだし」
「だとしても、今風呂入ったら倒れる」
立って居られずに座り込む私に、廉も座り込む。よしよしと背中をさすられて、アルコールのせいもあり、何だか気持ちが高揚していた。
「廉もいっしょにはいろーよ」
「…は」
顔を上げれば、すぐそこに廉の顔。きっと今私が少し動いたら、唇に触れる。
「…あかんで、そーいうの」
「んー?」
「他のヤツにもやってるん?それ」
廉の茶色い瞳の中に、私が映る。少し眉間に皺を寄せた廉が、何かと葛藤するように唇をギュッと噛んだ。
「ほかのやつ?…私廉以外の人と付き合ったことないよ」
「じゃーどこで覚えてきたん」
「なんのこと言ってるのかわかんない」
「…ほんっま、むり…知らんもん、こんなA、」
ごめん、とだけ言われた。背中にあった手が勢いよく廉の方向に引いたかと思えば、僅かにあった距離は埋まっていて。
「れ、」
「…悔しいよ、おれの知らないAがいるのが」
軽く触れた唇。啄むように、何度も触れる。まるで廉の存在を知らせているみたいに。
少しだけ潤んだ廉の琥珀色の瞳と目が合う。耐えきれなくなった様に、そのまま抱き寄せられた。
「れん、」
「…ごめん」
唇に残った感触。いっそのこと、何も感じなければ楽だったのに。
体温が足りないだけで、感触も、キスする時にいつも右手を頭に添えてくる癖も、何もかも変わってなくて。それが辛くて。
「れん、…ごめんね、…」
震えているような気がした廉の細い身体を、抱くことしか出来なかった。
*
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作者名:みう | 作成日時:2023年12月5日 21時