12.ケチ ページ12
「Aちゃーん!」
平野くんが手を挙げて私を呼ぶ。オーダーを取る為のメモとペンをポケットから出して向かうと、
「こちら、岸くん!そんで、こっちがAちゃん!」
と満点の笑みで紹介をしてくれた。
「岸ユウタです!!」
爽やかな太陽みたいな笑顔を見せた岸さんは、「Aちゃんね!!!」と私の名前を復唱して、また笑った。
「岸くんはね、俺とジンの同級生で、今はサラリーマン頑張ってるの」
「パティシエと飲食店やってる人に比べたら、インパクトは無いけど…でもほんと、毎日頑張ってます!」
「毎日頑張って、ケチ中だもんね」
「ジン!!!それはマジで、命かけて違うから!ケチじゃなくて節約!倹約!!」
同級生トリオの会話に入る隙もなく、あちこちから言葉が行き交うから追うので精一杯。取り敢えず、岸さんはビールを注文した。
「平野くんの烏龍茶と岸さんの生ビールです」
おまたせしましたと机の上に置くと、岸さんが「まじ腹減ったーー!!」と子供のような大きい声を出す。それに堪らず吹き出してしまった。
「ほら、笑われてるよAちゃんに」
「え、今笑ったのって俺の事ッスか??!」
「どう考えても岸くんでしょ」
ゲラゲラと平野くんが笑い、当の岸さんはマジかよ…と頭を抱えている様子。それも、なんだか面白くて。
「お酒、弱いのにいいんですか?」
そう口にしてしまった。岸さんがキョトンとした顔でこちらを見てくる。
「あーごめん。俺がさっき、どっちも酒弱いって言っちゃったの」
「紫耀よりは飲めるから!!!」
「どこに張り合ってんの」
岸さんが来てから、一気にお店が賑やかになる。キッチンの方に居るジンさんをチラッと見れば、会話を聞いていたのが楽しそうに笑っていた。
「酒弱いってちょっとカッコ悪いじゃん!」
「そう?Aちゃんどう思う?」
「人によりますね」
ちょっとだけカッコつけようとして生ビールを頼んだらしい岸さん。バレてるなら俺も烏龍茶にすれば良かったと嘆いている。
「楽しい人だよね、岸くんって」
「はい。みんな仲良さそうで楽しそうです」
「みんな岸くんのこと大好きだからね」
食器を下げに戻った私に、ジンさんが嬉しそうに笑った。
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作者名:みう | 作成日時:2023年12月5日 21時