11.8:00PM ページ11
｢頑張ってな｣
廉に見送られ外に出る。2月に入り、もうすぐ春が来るとはいえ、本格的な寒さに耐えきれず、マフラーに首を埋めた。
｢Aちゃんおはよう｣
｢ジンさん、おはようございます｣
今日から春休み。そして、長期休暇中はいつも、ジンさんが営む居酒屋でアルバイトをさせてもらっている。
｢あれ、Aちゃん？もう春休みなんだ｣
そして、店の閉店作業を終えた平野くんも合流する。
｢平野くんひとり？｣
｢ううん、後で待ち合わせてんの。今日来るヤツもお酒弱いからあんまり飲めないけど、ご飯は美味しく頂くんで｣
｢ジンさんのご飯は格別だからね〜｣
｢こ〜ら、おだてても何にも出てこないよ｣
ジンさんが、お盆でコツンと頭をたたく。平野くんが｢暴力はんたーい！｣と言い、ジンさんは｢これは愛のムチだから｣と弁明。
｢てか紫耀、今日岸くん来るんだ。珍しいね｣
｢そうそう。忙しいみたいだけど、俺の奢りって言ったら飛びついてきたよ｣
｢想像つくわ｣
ジンさんと平野くんは同い年で、高校が一緒だったそう。大学生になってバイト探しに困っている私を見兼ねて、平野くんが紹介してくれた。
ジンさんの居酒屋は、大衆的な居酒屋ではなくて、どちらかと言えば落ち着いた雰囲気のお店で、若い人よりも大人の人がよく来る。
ジンさんの作るご飯が美味しいのは勿論、なんと言ってもイケメンだから若い女の子は雇っていないらしいんだけど、平野くんの紹介ならと雇ってもらえた。
｢また岸くん来たら来るわ｣
ジンさんの言葉を合図に、私も仕事に戻る。いつもの常連さんばかりで、苦なんて無いぐらい、寧ろ楽しい。
前までは定期的なアルバイトをしていたけど、学校やらインターンやらで忙しくて、ジンさんにダメ元で長期休暇中だけでもとお願いしたら、
｢Aちゃんが居てくれないと困るから、待ってるよ。焦らず頑張ってね｣と言ってくれた。久し振りのバイトに、気合いも入るし、胸が踊っていた。
20:00を過ぎた頃。段々と店のお客さんも酔いが回り始めて、ガヤガヤしてきた時間帯。
お店のドアが開く音がしたと思うと、スーツ姿の男性が1人で入店してきた。
｢おー！岸くん久しぶりじゃん｣
｢ジンの店めっちゃいい匂いするわ！！！腹減った！！｣
｢岸くーん！！！こっちこっち！！！｣
ジンさんと平野くんが、早く！と手を招く。
*
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作者名：みう
| 作成日時：2023年12月5日 21時
