02.思い出と現在 ページ2
平野くんにお礼を言って、ケーキを抱え家に帰る。
廉が1度も入ったことの無い家。
廉との思い出がない家。
「づがれだ〜」
のはずなのに、置いてある2人の写真や廉のお気に入りの香水の香りや、捨てられない廉からのプレゼントのせいで、
「廉、お誕生日おめでとう」
私はあの日から時が止まったように、今日まで生きてきた。
そっと指先で視界に映る廉の顔を撫でてみる。
写真の向こうの廉は曇りのない笑顔なのに、きっと私は苦しい顔をしてるんだろう。
段々と廉の顔が滲んで見えなくなっていく。
大好き。大好き。廉があの時もこれからもずっとずっと、大好き。
ーー...「ほんま泣き虫やなー、ブスがもっとブスになるやん」
制服を着た廉が私に言う。そんな酷いことを言いながら愉快そうに笑って、
ーー...「Aは笑った方が少しはマシになるんやから、泣くなー」
ギュッと抱き締めてくれる。押し付けられた廉の胸からは微かに香水の香りがして、
匂いを鼻いっぱいに吸い込もうと鼻を押し付ける私を、離さないとでもいうようにより強く抱き締める廉が、
好きで好きで仕方なくて、高校生だった私の全ては廉で出来ていた。
溢れ出る涙を拭き取って、写真の廉にこれでもかとニッコリと笑ってみせる。
「よし!!」
年に1回。私が廉を想って泣くのはこの日だけ、この時間だけと決めている。
また来年、ケーキ用意するから一緒にお祝いしようねと心の中で呟いた。
*
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作者名:みう | 作成日時:2023年12月5日 21時