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たった数日。なのに自分の中に、
松本さん、…今は田中さんとわかったけど、
とにかく彼に特別な感情が芽生えてる事に気がついた。

けど。

はじめて会った今日、全てが終わる。
終わらせると決めた。

"好きになってはいけない相手"

まだ傷が浅くて済む、よかった。
一生の思い出にしよう、楽しもう、

そう慌てて気持ちに蓋をしようとする。のに。

目の前の田中さんは大人っぽくてかっこよくて。
一般人の私なんかに真摯に対応してくれる。

そんな姿を見てたら、
蓋したはずの気持ちが大きくなってくような気がした。

(だめだめ、)

私が発した、乾杯しましょうか?と声に、田中さんがじゃあこの出会いに、乾杯。なんて言うから面白くて

…涙が出てきた。

(今日で最後)

そう切り替えて、そのあとはなるべく普通に接した。

話していないと、ちょっと自分を覆ったものが、気持ちの蓋が外れてしまいそうで。なるべく話した。

普段人前で飲まないようにしてたワイン。
お酒は弱くはないけど、
何故かワインは私を酔わせてくる。
でも一番好きなお酒。

あんまり人前では飲まないようにしてたのに
ワインがおすすめのお店って言われたら。

緊張もしてるし、最後だし。
このお店にももうこないだろうし。

いろいろ理由をつけて進んでしまう。
提供されてから時間が経ったスパークリングワインは
少し気が抜けて、申し訳ないと感じた。

ちょうどまた料理が運ばれてきて、
そのタイミングで
おすすめのワインをいただくことに。

彼のグラスにはまだ半分以上ある。
営業で培った無駄な?気配りスキルを発揮する。

ワインについて話してたら私の白ワインが来た。
さっきまで入ってた彼のグラスが急に減ってるのを確認して、次何にするか聞いた。

なぜか彼は少し驚いた顔をしながら
同じものを頼んだ。

こうして淡々といつもの仕事の接待みたいな席にすれば、気持ちに蓋をしたまま平静でいられる。
私は傷つかないで済む。

きっと彼も。

彼のドリンクが来た時、よくわかんないけど
何故かもう一度、最後に乾杯したくなって。

飲まないで待ってた自分の白ワインを持って
ーー今日はありがとう、
の乾杯をした。

田中さんとの最後の乾杯。