StLtH22 (ページ1)

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その日、謙さんが帰ってきたので私は口にした通り家を空けることにした。

約1週間分の荷物を手にして、家を出た。

「・・・、」

最初は行き先なんて無かった。
どこに向かうべきかその時考えようと思ってた。

だけど。

ー俺んち、おいで

また自分の部屋の鍵と一緒に束ねた彼の部屋の合鍵は大事にポケットの中に入っている。

私は、じんのところに行くだろう。

そう分かってはいたけど、

その前に、少しだけ、一人になりたかった。

昔から好きだった場所の一つに、足を運んだ。

その場所は少し高い場所にあって、

景色が綺麗だった。

都会の景色と天気が良ければ綺麗な夕空を一望出来るその場所は、懐かしい場所でもあった。

ふぅ、と息を吐く。

人間は何をしてる時が一番幸せなのだろう。

昔は好きなことをしている時が幸せだと思ってた。

でも、きっとそれよりも幸せなことは好きな人と平凡な時間を過ごすことなのかもしれない。

目が回るような展開を繰り広げる恋愛を、私は本当に望んでた？

あれは、間違いなく浮気だ。

じんはそれを知っているはずだ。

知ってて、それでも私に優しくしてる。

「・・・。」

じんはどんな気持ちでいたのだろう。

私の話をずっと聞いてくれたじんは、どんな気持ちだったのかな。

許せなくて当然なのに、謝る度に困った顔して「怒ってないよ」って言う彼はどういう気持ちで居たのかな。

また、話さないと。

自分のことも、話さないと。

じんの気持ちも、ちゃんと聞かないと。

どんなことを言われても、ちゃん受け止めたい。

ちゃんと話して、それでもじんが私と一緒に居たいと言うのなら。

「・・・じんのところ、行こう」

そう口にすれば、勇気が出てくる気がした。
3ヶ月前まで当たり前のように通ってたそこに慣れたように向かう。

電車に揺らされる時間もなんだか良かった。

これから、

自分からじんに会いに行く。

そう考えたら、少し楽になった。

片手に姫を抱えて彼は「おかえり」と口にした。

神「ご飯は食べた？」

「うん」

神「そっか。俺さっきね、実家に帰って姫連れてきた」

「姫、久しぶり」

姫を優しく見つめるその表情を見て私まで穏やかになる。

雨が降ってる窓の外。
湿気の多い雨の日特有の時間がゆっくり流れるような午後3時。

じんの横顔を見つめて、少しだけ苦しくなった。