PAST IVー6 ページ7
「・・・最後になると思うので、観に来てくれますか?」
電話口で恐る恐るそう口にすると、お父さんは少し黙り込んだ後「母さん、Aのバレエを見に行こうか」とお母さんに声を掛けたようで。
「いいですねー、久しぶりの帰国だし」と笑った声が聞こえて胸を撫で下ろす。
「ありがとうございます」
「ああ、最後だから頑張ってきなさい」
「・・・はい。」
電話を切ると、息を吐くと共にまたプレッシャーというものが私にのし掛かってきた気分になり長く深呼吸をする。
大丈夫、きっとこの先もバレエが出来る。
そう自分に言い聞かせ、限界まで踊り続けた。
やっと紫耀の隣で踊れるようになったのに、最後かもしれないという不安を抱えるのはなんて悲しいことなんだろうと思った。
久しぶりに二人の時間が取れたけど、お互い疲れ切っていて会話は長く続かなかった。
紫耀の胸に凭れかかり、自分の身体に巻きつく逞しい腕を指先で撫でると擽ったそうに笑みを零した。
「・・・ありがとね」
紫「ん?」
「バレエ、まだ辞めないでくれて」
私がそう言うと彼は驚いたように息を飲み、「なんで?」と口にした。
「レッスンに来なくなった時に、ちょっと考えてたの。もしかして辞めるのかな?って」
時期的にありえなくないし、紫耀のことだから。
紫「うん、」
「・・・やりたいこと、あるんでしょ」
そう口にすると紫耀が後ろで頷いたのが分かった。
「そっか、」
寂しいけど、予想がついていたことだ。
紫「でも、その前に」
「うん?」
紫「その前に俺がやりたいことはね」
『ちゃんとした場所でAと一緒に踊ることだよ』って言われて、胸が温かくなる。
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作者名:愛美 | 作成日時:2019年3月10日 20時