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PAST IVー２ページ3

ある日バレエのレッスンから帰って、部屋に入ると私はどさっと座り込んだ。
カバンを漁りさっきもらった紙を広げて、そこに書かれている文字を凝視する。

プリンセス・ジーナ役加藤A

ついに、ヒロインの役が回ってきた。
やっと。
やっとだ。

やっと、紫耀の隣で堂々と踊れるんだ。

嬉しいのと、不安と、とにかく興奮が入り混じった感情。
紙を顔に当てて深いため息を吐く。

私の勝負は、これからだった。

ここで実績を残して、バレエを続ける。
残せなかったら、多分バレエはもう出来なくなるだろう。

これは、お父さんとの約束だった。
高校に入ってからあれほどバレエをやめるように急かされていたし、もう2年生の後期になる。
そろそろ受験、と口うるさくなる日も近いはずだ。

だから、これが最後のチャンスだった。

紫「大丈夫？」

「ん？うん」

バレエのレッスンが終わり、シューズのリボンを解こうとしていたところに紫耀がやってくる。
今回も当たり前に主役だから練習に参加しないわけにはいかない。

この前までレッスンをサボってた真相はよくわからなかったけど、今は一緒に練習できているからこれでいいと思っていた。

紫「難しいところ、あった？」

フロアには自分たちしか残っていなくて、彼は私の隣にやってきてそう問いかけてきた。
この手の問いかけは珍しくないものだった。
彼は踊る私を、よく見ていた。私のクセも熟知していた。
踊っている私が好きなんだな、と思うほど彼は細かいところまで見てくれていたのだ。

付き合い始めた時からずっとそうだった。
私のパフォーマンスを一番理解していたのが、紫耀だった。

「難しいところ・・・」

紫「シーン15の中盤。」

「え？」

なんでわかったの？

紫「自信なさそうに踊ってたから」

「顔に出てた？」

紫「そのシーン、ほぼ乱れてた」

「・・・そっか」

紫「他は全部完璧、妥協がないAの踊りって感じだったけどそこだけ気になった」

「うん、そこ練習しなきゃ」

紫「付き合うよ」

「え？」

紫「一緒にやろう」

え？本当に？と驚く私に優しく微笑んで、シューズのリボンを再び結ぶように促すと私の手を引いた。