ＬＯＶＥＲ'Ｓ- [ 短編集 ] -

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先生はすごく綺麗な女の人と楽しそうに並んで話をしていた。


あの可愛い笑顔が他の人に向いているって、
…そう思うだけで胸が苦しかった。




先生と居ればそんなことないのに1人の待ち時間はすごく長く感じた。




先生の方をちら、と見ると
まだ楽しそうに話しているから私は半ば諦めモードで電車に足を踏み入れた。





「っ、」




突然腕をグッと引かれて振り返ると

「暇そうじゃねーか」と私の苦手なその人が息を荒くして立っていた。





「…っ何ですか？…離してください、」

「お前やる気ねーだろ？
仕事も人間関係も。手抜いてんじゃねーよっ」

「っいた、手、…っ痛いです」





腕も心も、キリキリと締め上げられて痛い。


ああ


何だか今日は色々とついてないななんて
荒んだ心は本気の諦めモードに入ろうとしていた






その時、






「おい、何やってんだよ？……痛がってんだろ？」






途端にグイッと引き離された手と手。


自由になった私の身体は
ふわりと違う体温に包み込まれながら背後から抱き留められた。



顔は見えないけれど…爽やかなこの香りは

私に気づいてないはずのその人のものだった。






「大丈夫」。





私にしか聞こえない声で後ろからそっと囁くと、
岩本先生は私を後ろに隠して
「俺の彼女に何か用かよ？」と静かな怒りをその人にぶつけた。



…俺の、彼女。



その言葉に面食らっていると先生は
「警察に厄介になりたくねえならさっさと失せろ、」と強面を効かせてその人を追い払ってくれた。





彼が降りていくと、はぁ〜っと大きなため息が聞こえて
勢いよく振り返った岩本先生が「大丈夫？怪我は？手見せてみろ」と言って私を座席に座らせた。





「先生、なんで」

「同僚に捕まってたらさ、視界の隅っこにA見つけて。追っかけたらこんなことになっててまあ驚いたよ」

「同僚…」

「ちょっと赤くなってんな。…痛い？」





「少し」と言うと、何故か先生がごめんと言った。





「俺がもっとはやく助けられたら良かった。
…あと何気に余計なこと言った」

「そんな、全然」

「あいつにすげえムカついてカッとなった」





「Aのこと悪く言われんの許せねえからさ」。

そう言って先生は照れ臭そうに私を見つめた。





「「良かったら…連絡先、」」





言葉もタイミングも全部揃ってぷっ、と吹き出すと

先生は「今度一緒に出かけたい、Aと」と可愛い顔で笑った。






End

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