． ページ6
彼の柔らかくて間延びした声。
彼の小さく香る甘い匂い。
端正につくられた綺麗な手、雪を連想させる白い肌…。
ついこの間まで覚えていたのに、全て遠いところにあるみたいに、輪郭がぼやける。
なんで、どうして思い出せない？
俺は、彼だけだ。
彼だけを見ていた。
なのに…それなのに、一番にでてくるのは、君の甘酸っぱいオレンジの匂いに、少し焼けた黄金色の大きな手。
もう、言い訳なんて出来なかった。
ずず、と鼻をすすって、有岡くんから離れる。
「ごめん」
そう言った俺を呆れながら、有岡くんは涙で濡れた目をそっと拭ってくれて、小さく笑った。
「ほんとだよ。でも、泣いてくれてよかった」
「え？」
「だって高木、伊野ちゃんと別れてから一度も泣いてないでしょ？」
ああ、そういえば。
俺が最後に泣いたのは、伊野尾くんに別れを告げられたあの日以来だったかもしれない。
「…よく見てるね、有岡くん」
「まー、好きな人だからね」
何気なく言った言葉を、真剣に返されて。
しかも、それが俺に対する好意だったから一瞬、
思考回路が途絶してしまったじゃないか。
固まった俺に、有岡くんはくふふ、
と楽しそうに笑う。
さっきまでの悲しそうにつくる笑い顔なんて
面影すらなくて。
いつもの、楽しそうに笑う顔が
太陽みたいだと思った。
なんだか真夏の太陽にやられたみたいに、
クラクラ。
いや、太陽にやられたのだ。
月のように凛と笑う彼じゃなくて、
空のもとで大きく笑う君にやられた。
俺を笑っていた有岡くんが、
急に真剣な眼差しで俺を見た。
「ねえ、高木。やっぱり俺、お前が好き」
「へ？」
「だからさっきの言葉、訂正する！俺、お前が俺を好きになるまで頑張るからさ、
…返事、ちょうだい？」
ずくんっ！
と胸が疼く。
久しぶりに感じる温かさに、気がついたら
笑っていて。
このままじゃ、時間の問題かも、なんて遠いところで考えていた。
吾亦紅【ワレモコウ】 変化・愛慕
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 52人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
トルタ(プロフ) - ぽいさん» 更新も遅く、伝わりにくい文章ですがぽいさんにそう言っていただきとても嬉しく思います。コメントありがとうございます。 (2017年4月27日 19時) (
レス) id: f2950f8700 (このIDを非表示/違反報告)
ぽい(プロフ) - 言葉選びが繊細で、トルタさんの人柄が手に取るように分かります...応援してます (2017年4月20日 20時) (レス) id: 97be06f220 (このIDを非表示/違反報告)
トルタ(プロフ) - A-yuy-Aさん» 自分の趣味程度の拙い文章ですがA-yuy-Aさんにそう言って頂きとても嬉しい限りです。ありがとうございます。 (2017年2月13日 23時) (レス) id: 2320849466 (このIDを非表示/違反報告)
A-yuy-A(プロフ) - こんにちは。切ない気持ちの表現とか、文章とても好きです。更新楽しみにしています。頑張って下さい。 (2017年2月13日 10時) (レス) id: 4b9d5955f1 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：トルタ | 作成日時：2017年2月12日 22時
