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教室に戻る気になれなくて、
だからといってどこに向かってるのかも
特に考えず、ただぼーっと歩いた。
おもむろに携帯の画面を開いたら、
もう直ぐ午後の授業がはじまる10分前で、
このままぷらぶらするのもあれだなと
やっとそこで意識がはっきりしてきて、
とりあえず体調が悪いとでもいって
保健室に行くことにした。
保健室に向かう廊下、
ふと何気無く窓の外に目を向ける。
そこには青々と芝生が広がる中庭と、
よく知ってる2人。
俺の中では、
今一番見たくない2人。
「......っ。」
俺の視界に映るのは、
永瀬と神崎が唇を重ね、
離れると泣きじゃくる神崎の頰に
流れる雫を拭ってそっと抱きしめていた。
眼に映る光景に
今までにないくらいの暗闇が
自分の心を支配する。
付き合ってることは、もちろん
わかってはいたし、
付き合ってればキスのひとつやふたつ
することなんか
わかってはいるけれど。
それでもやっぱり、いざ目の前にすると
受け止めきれなくて、動揺を隠せなくて。
「....あ、れ?」
気づいたら自分の頰に伝う涙に
びっくりしてしまう。
ーーそれが同時に、
こんなにも神崎のことが
好きなんだと再認識させられたように
感じた。
「...ん、だよ。これ。止まれよ」
口から溢れる言葉とは裏腹に
瞳からはどんどんこぼれ落ちてくる
涙を手で必死で拭う。
ーー俺の方がこんなに好きなのにっ、
神崎を好きになったのは
俺の方がずっと先だったのに!
なんで、親友が好きになった相手は
神崎で、
俺と一緒の人で。
なんで、親友の彼女が神崎で、
なんで永瀬だったんだろう。
こんな気持ちばかりが
頭の中をいっぱいにする。
"ーーそういや、盒兇辰
好きなことかおるん?"
ーーーいるよ。神崎A。
そう言えたらどれだけいいか。
でも言えない。
この気持ちは叶わないから...
「...っ、なんで好きになっちゃったん
だろ..っ」
そんな独り言をもらす、
静かな廊下に鳴り響く
午後の授業の開始を告げるチャイム。
ーーーもう、色々と限界なのかもしれない。
そう思いながら、俺はその場に崩れ落ちるようにしゃがみこみ、声を殺して泣いた。
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作者名:しのん。 | 作成日時:2019年7月28日 0時