一直線の恋 (ページ2)

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「A、数学苦手なん？」

永瀬くんは私の真っ白な課題プリントを見てからそう聞いた。

「うん、全然わかんなくって」

「どこが分からんの？」

「うーん、全部笑」

「全部ってなんやねん」

「私バカだから笑」

「そんなことないやろ」

「そんなことあるよ、私、いつも全教科赤点だもん笑

部活も暇だし、特技とかもないし笑」

そこで、しばしの沈黙。

「……なぁ、何で笑ってるん？」

そう聞かれて、びっくりした。

出来ない自分を自虐して、ヘラヘラ笑って。

そうしていれば、もう誰からも責められないって思ってたから。

それが同情なのか、呆れなのかはわからなかったけれど。

何かに全力になってるみんながうらやましい一方で、

私自身はどこかでそうなることをあきらめていたんだ。

全力でやって失敗するなら、最初から何もしないほうがいいって。

出来なくても、笑って誤魔化せば

もう誰にも責められることも怒られることもないから。

「ん……私ってバカだなぁって笑」

「……それで、ええの？」

私がまた笑って逃げようとするのに、

永瀬くんの視線はまっすぐで私から離れない。

それでいいかなんて……

逃げてばっかりで良いわけないのは分かってた。

でも、今までずっと逃げてきた私には、

もう全力とか本気とか、そんなの無理なんだよ。

誰にも求められてないんだよ……

気付けば涙がこぼれていた。

「……いいよ、このままで」

情けなくって、怖くって、ちょっとだけ嬉しいような

よくわからない気持ちで、永瀬くんの目を見られなかった。

「じゃあ、何で泣いとんの？」

何で、何で、そうやって痛いところばっかり突いてくるんだろう。

「それは……」

何かテキトーなことを言って、すぐにでもここから抜け出したいのに

涙にさえぎられて何も言葉が出てこなかった。

「俺が見つけたるよ、Aの特技。

一緒に探そうや、A」

これが、永瀬くん───廉との最初の出会いだった。