Vict.293 ページ43
菜花はぐっと涙を堪え、真っ直ぐ私を見た。
菜「私、可笑しいの…」
A「可笑しい？」
菜「…聡くんの事を考えると、胸がドキドキして……変、なの」
たどたどしい、菜花の言葉。
A「っ、それって――」
菜「違う…絶対違うよ…！私は先輩の事がずっと好きだった――」
A「“だった”？」
私の言葉に、菜花は顔を赤くする。
菜「っ…ホントはね、聡くんが好きって言ってくれて嬉しかった。だけど、私には先輩が居る。先輩の事、すごく好きだよ。でも…っ」
A「菜花はどっちが好きなの？」
菜「…正直、わかんない。だけど、このまま聡くんの優しさに甘えたら私…ダメになっちゃう気がする」
A「…どうして？」
菜「聡くんの事、これ以上傷付けたくないの…。こんなあやふやな気持ちのまま、聡くんの気持ちに応える事なんて出来ない」
A「聡くんは、いつだって菜花の気持ちを優先的に考えてるよ。菜花の想いを知ったら、きっと喜ぶと思う」
菜「…聡くんには、まだ言わないで……。Aには、私の気持ち…知っていて欲しかったから――」
A「菜花…。うん、わかった。誰にも言わない。話してくれてありがとう」
私がそう言ったら、菜花はホッとしたように微笑んだ。
さっきよりも、少し気が楽になったみたい。
菜「…私、Aがずっと羨ましかった。昨日、勝利くんを見て思ったよ。Aの事、すごく大切にしてるんだなって」
A「っ…菜花」
菜「私は先輩の“彼女”だけど、そんなの肩書きだけだよ。きっと勝利くんが持ってるような感情はない」
それは…
先輩の愛情を否定してるって事だよね？
菜「あ、時間大丈夫？もうすぐ昼休み終わっちゃうよ」
不意に菜花が食堂の時計に視線をやる。
A「わ、ホントだ。私まだお弁当食べてないのに…！――ごめん、先に教室に戻るね」
菜「うん、お弁当も食べずに心配して来てくれたんだね。ありがとう」
菜花が嬉しそうに微笑むから、私も嬉しくなった。
教室に戻ると、真っ先にマリくんが飛び込んで来た。
マ「やっと戻って来た！待ちくたびれたよー…って、コロッケは？」
手ぶらで帰って来た私を見て、マリくんは不思議そうに目を瞬かせる。
A「あ…」
どうしよう、すっかり忘れてた。
そんな私を見て、マリくんが嘆いたのは言うまでもない。
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作者名：りん
| 作成日時：2015年10月30日 10時
