Vict.254 ページ4
健母「…本当は、あなたが私を止めようと女遊びを始めた事……わかってた。でも、やめれなかった。私がやめれば全てが許されてしまう気がしたから」
健人くんからすれば、今となっては言い訳にしか聞こえないかも知れない。
健母「“彼”を好きになって、いざ男遊びをやめる事が出来ても、どうしても健人には言えなかった…っ」
健「っそんなに、俺に父さんを憎み続けて欲しかった？確かに父さんは今でも憎いよ。だけど、俺が一番に望んでいる事はそうじゃないって母さんもわかってるでしょ…？」
健母「…っ」
健「俺は…母さんに幸せになってもらいたいだけなんだよ。心から笑って欲しくて、普通の当たり前の生活が恋しかった。家族なのに、いつも一人ぼっち。いつか“赤の他人”になってしまうんじゃないかって――怖かった」
溢れ出す涙と共に、健人くんの心の奥底から放たれた本音。
誰よりも、お母さんの事を大切に思ってきた。
裏切られても、突き放されても、決して諦めなかった。
傷付いても、心が折れそうになっても、何より彼は強さを保ち続けた。
健母「…健人っ…！」
どちらからともなく、二人は抱き締め合った。
力強く、これまでの時間を取り戻すかのように――。
溢れ出す涙が、互いの肩口をぬらしていく。
健母「ごめんねっ、本当に…ごめんなさい…っ」
健人くんのお母さんは、何度も何度も、彼の胸の中で謝り続けた。
健「もういいよ、母さん。母さんが幸せなら…俺も嬉しい。だから、泣かないで。俺も――もう泣かないから」
涙を拭い、顔を上げ、ぎこちなく微笑み合う二人。
そこにはもう、“距離”なんて感じなかった。
ずっと、夢にまで見た親子の姿が、そこにはあった。
健「…何か、安心した。捨てられたんじゃないんだって。俺の側に居る事で感じてた母さんの“罪悪感”が、今ようやくわかったよ」
健母「健人…」
健「それでも、再婚するなら結局は家を出て行く事になるよね。それなら尚更、相手は俺を受け入れる事は無いよね」
そう言って健人くんは苦笑する。
健母「…違う、その逆なの。私が一方的に健人から離れようとしてただけで……“彼”は、あなたと一緒に暮らす事を望んでるの」
健「え…？」
その言葉に、驚いたように目を丸くする健人くん。
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作者名：りん
| 作成日時：2015年10月30日 10時
