Vict.146 ページ46
健「…Aがもし、勝利と出会って無かったら――俺と付き合ってくれてた？」
A「………」
そんな事、考えた事も無かった…。
勝利くんに出会って無かったら私は…
少しでも、健人くんを意識していたのかな？
考えてみたら、一ヶ月前はまだ皆と出会ってすら無かった。
A「…そうだね。可能性は…あると思うよ」
健「…え？」
私の答えが意外だったのか、
健人くん……相当驚いた顔してる。
A「時々、思うの。健人くんを好きになれたらいいのに…って。そしたら、勝利くんの事で辛い思いをしたり…悩んだりしなくていいのにって」
これは、健人くんの好意を利用しての私の“逃げ”に過ぎないけど…。
でも絶対、そんな事はしない。
私には、今もこれからも勝利くんだけだから――。
健「………」
A「でも、何で突然そんな――…」
私が言いかけた時、不意に健人くんの唇が重なった。
A「……っ…！？」
驚きのあまり、思考回路が停止する。
瞬きすら出来ない――。
抵抗する間も無く、直ぐに健人くんの唇は離れた。
健「…今のはAが悪い」
A「なっ…！？」
健「弱ってる俺を喜ばせたりするから」
A「っ！意味わかんない…っ」
私のせいだって言うの…？
健「だから……謝らないから」
そう言い残し、健人くんは部屋を出て行った。
A「…っ…キス……初めて、だったのに――」
力が抜けたように、その場に座り込む。
マリくんがほっぺにした時とは、訳が違う。
ふと、マリくんの言葉を思い出した。
“Aちゃんの唇は、勝利くんのモノだよ！”
密かに、そうであったらいいな、なんて夢みたいな事思ってた。
それだけ、私にとっても特別なモノだったのかも知れない。
健人くんに襲われかけた時だって、彼の唇が私に触れる事は絶対に無かった。
健人くんにとってもそれだけ“大切”な事なんだって…
自分に言い聞かせてるんだって、そう思ってた。
だから、私も油断していたんだ。
今なら…健人くんの気持ちがわかる気がする。
私の心の弱さが、傷心した健人くんを刺激してしまった。
歯止めを利かなくさせたのは――
私のせいだ。
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作者名：りん
| 作成日時：2014年7月29日 15時
