祈り (ページ43)

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「やば！意外とベッド心地いいんだね！」

もうそろそろ本気で皮膚が破れるんじゃないかと思いだした９ヶ月。
いよいよ入院生活が始まった。

初めの一週間は意外にも快適だった。
本当に初めの一週間は。

「はぁ...家帰りたい...」

すぐに退屈になってしまった。
あんまり動かないから全然眠くないし、何せ家から何も持ってきていなかった。

「先生！暇なんだけど！」

「そうですね...なら、中庭を散歩してみたらいかがですか？」

「散歩？」

「出産のために体力はつけていただきたいですし、いい気分転換になると思いますよ。ただ外は寒いので行くとしたら必ず暖かい格好でお願いします。」

「ほーい。」

外に出るとダウンジャケットを着ていても身震いするほど寒かったが、太陽が綺麗に辺りを照らしていた。
はぁ、と息を吐くと白く儚く消えていく。

俺もみんなの前からこんなに綺麗に消えることは出来ただろうか。

「んー！気持ちいいー！」

久しぶりにしっかり外に出たせいか、今まで感じたことの無い開放感を味わった。
周りには看護師さんに車椅子を押してもらうおばあさんや、リハビリなのか杖をつきながらゆっくり歩く若い男性など色んな人がいた。

初めて病院に来た日もこんな感じで色々な人がいた。
もうあれから一年が経つなんて信じられなかった。

「ふぅ...疲れた。」

やはり大きいお腹を抱えて歩くのは相当体力を使う。
まだ数分しか経ってないのにベンチで休憩することにした。

「...ん？」

ボーッとしていると遠くの方に何か見た事のある格好をした人が誰かと歩いていた。

「え...慎太郎？」

何であいつがこんな場所にいるんだよ。
雰囲気的に見舞いか？

俺は意外と冷静だった。

「慎太郎...しんたっ...！」

いや、全く冷静ではなかった。
気づけば名前を呼びながら慎太郎の方に足を進めていた。

「えっ...ちょっと待って俺っ...」

もう少しのところで我に返った俺はひたすら逃げた。
慎太郎の声が聞こえなくなるまで、慎太郎の姿が見えなくなるまで、絶対振り返らないようにただ逃げた。

「はぁっ、はぁっ、はぁっ、...ふぅ。」

何してんだよ、俺。

大きいお腹で走ったせいか、それとも自分の行動に対してなのか分からないがしばらくの間動悸が止まらなかった。