祈り (ページ36)

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「ママ...ママ分かりますか？」

目が覚めた。
白い天井、消毒液のような匂い。
ここが病院だと理解するまでにさほど時間はかからなかった。
横には心配そうな先生がいた。

「あれ...？俺どうしてて...あ、そうか。」

さっきの出来事を思い出した。
俺、暴れちゃったんだ。

「先生、ごめんね。大人気ないことしちゃった。」

「いえ、お体大丈夫ですか？」

「うん、大丈夫。もう帰るね。」

俺は逃げるように診察室を出た。
病院の外は雨を降っていた。
天気予報なんて見てなくて傘なんて持っていない。

でも今の俺にはちょうど良かった。

「ごめんっ...ごめんねっ...」

雨音と水しぶきに紛れるように俺は泣いた。
ただ申し訳なかった。
こんな苦しい思いをさせてしまっている赤ちゃんにも、ジェシーにも。

好きな人の赤ちゃんを元気に産んであげられない。
こんなに苦しいことがあるのだろうか。

周りからしたらすごい光景だろう。
傘もささずただ俯いてゆっくり歩く妊婦。
途中で見知らぬおばさんが傘を差し出してくれたが、全く目もくれずただ歩いた。

家に着く頃には着ていたワンピースが肌に張り付き、時間をかけたメイクも落ちていた。
もう何も考えたくなかった。

「俺、どうしたらいいんだよっ...助けてっ...」

ジェシー、お前ならどうする？
なんて言ってくれる？

人生まさかの連続？
こんな時こそ笑えよって言う？

「生きてるだけでいいんですよね。」

「え？」

どこからかジェシーの声がした。
それはいつの間にか点けていたテレビからだった。

聞く人によってはキツく聞こえるこの言葉。
でも今の俺にはすごく響いた。

そう。
例え足が一つ無くても心臓は必死に動いている。

「そうだよな。お前は今ちゃんと生きてんだよな。」

すると微かにお腹にポコっという感覚がした。

「もしかして蹴った？」

まさに自分はここで生きていると教えてくれているようだった。

「ちゃんと生きてるな、お前っ...」

妊娠してからすごく涙もろくなったと思う。
でもそれはいつも君がお腹の中から大切なことを教えてくれるからだよ、きっと。

「見て、ジェシー。この子蹴ったよ。」

テレビの前のジェシーにお腹を見せると、とびきりの笑顔でGoodポーズをしてくれた。