祈り (ページ28)

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「はぁ、美味かったー！」

「樹のお腹ポンポコリンだね。」

「え？」

どつやら伸びをした時にTシャツが捲りあがってお腹が少し見えてしまったようだ。
最近少しずつお腹が大きくなってきて、ズボンもキツくなりスウェットばかり履いてる。

「赤ちゃんいるみたいだろ？」

あれ？
俺何言ってんだろう。
でも今のこの状況にやけに冷静なことは分かる。

「Baby？パパでちゅよー！」

完全にジェシーは俺のおふざけだと勘違いしてくれた。
俺のお腹にずっと話しかけている。
おふざけだとしても、こんなやり取りをジェシーと出来たことがたまらなく嬉しかった。

それと同時にやっと踏ん切りがついた。
消えるなら本当に今しかない。
この幸せなうちに。

「樹？どうした？泣いてる？」

気づけばポロポロと涙を零していた。
それはこの状況に対する嬉しさなのか、ジェシーと離れる寂しさなのか。

「…笑ってんだよ。」

声が震えるのを我慢してやっと絞り出した一言。
涙を拭ってくれたジェシーの親指が温かくて、優しくて、愛おしくてまた涙が出た。

「樹が良くなって本当に良かった。」

またジェシーの匂いに包まれた。

「ありがとう。ジェシー、愛してる。」

もう直接愛を伝えられるのは最後だろう。
だからいつもは恥ずかしくて言えないことも必死に伝えた。

「俺もだよ。これからもずっと一緒にいようね。」

普段なら嬉しいはずの言葉。
なのに今は胸が痛い。

「ほら、もっと赤ちゃんに話しかけてよ。」

俺はたまらず話を逸らした。

「んー、君は女の子だね。」

「え？そうなの？」

「樹が女の子みたいに可愛いから。」

「意味分かんねーよ。」

ジェシー、俺のお腹には本当に愛するあなたとの赤ちゃんがいるよ。
まだすっごく小さいけど頑張って生きてる。
でもジェシーとこの子の成長を見守って喜びを共有することはないんだね。
一生この子にパパとして会わせてあげられないかもしれない。

ごめんね、弱い俺で。
俺なんかとジェシーが出会わなければ良かったんだね。
俺が男じゃなければ良かったのに。

ねぇ、赤ちゃん。
そこからは外が見える？
声が聞こえる？
少しでも見えたり聞こえるなら、しっかり覚えておいて。

これが世界で一番かっこいいあなたのパパだよ。