愛したかったカノジョ tn.Ver（ﾘｸ） ページ38
死ネタ
彼女はいつも運が悪かった。
そしてそんな運の悪さも笑ってしまえるほど強かった。
「いやぁ、あそこで部長に会うとは思わなかったね。」
今日も今日とて押し付けられた仕事をサービス残業で片付ける。
エナジードリンクを飲む口はいつも歯を見せて笑っている。
「べつに、トンくんが付き合う必要ないんよ？」
キーボードをカタカタと打ちながら顔だけをこちらに向ける。
「いや、俺が手伝いたいだけやから」
目も合わせずに言うと彼女は嬉しそうにまた笑って。
「良い同僚を持ったものだ。」とパソコンに視線を戻す。
彼女に気持ちが伝わらない俺もなかなかに不運だ。
無言は続き、終わったと気づいた時には終電をとうにすぎていた。
「ありゃ、終電ないね。仕方ない歩いて帰るか。」
「歩いて帰れるん？いつも電車やなかった？」
「時間はかかるけど帰れんことは無いよ。」
「そうなんや、俺どうしようかな。タクシー拾っても時間かかるしどっか泊まろうか」
「なら私んちきーや。」
「え？や、でも」
「手伝ってくれたお礼になんか作ったるよ？」
そのほほ笑みを俺は断ることは出来ない。
だけど俺は忘れていた、今日の彼女は運が悪い。
コンビニスーパーで食材を買って彼女について行く。
住宅街の狭い道路で車通りは時間も時間なので少ない。
ただ俺たちの足音だけが閑静な住宅街にこだまする。
少し寒くなってきて息が白くなって宙を舞う。
何を話して良いかも分からないこの空気を濁すように俺は息を吐き続けた。
すると、左手にヒヤリとしたものが当たる。いずれそれは左掌を包み込みぎゅっと握った。
「寒いね。」
いつもと違って眉を下げて遠慮げに笑う彼女。
俺は彼女に見とれてしまった。
その一瞬、刹那、ブレーキ音
ゴムとコンクリが擦れ合い甲高い耳障りな音を発して、こちらに突っ込んでくる。
するりと手のひらをぬけた細い指は、俺をおしのけて、音にぶつかった。
「え」
目の前には煙を挙げる車と赤い血痕。
細い指の手のひら
運転手も即死のこの自己で俺だけが生きた。
どんどんとじゃじゃ馬が集まる中俺はぼーっとその細い指を握っていた。
彼女は不運だ、人に理不尽に仕事を押し付けられ、
それでも認めて貰えず、毎日毎日終電逃しても死ぬことなく生きていたというのに。
おい、運命。お前は彼女の何を見ていた。こんなにもお前のわがままに付き合った彼女を、お前はどうしてそんな、簡単に……
愛したかったカノジョ os.Ver（ﾘｸ）→←愛したかったカノジョ gr.Ver（ﾘｸ）
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 501人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
この作品を見ている人にオススメ
「wrwrd」関連の作品
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
ケントゥム - 憑き物って「トワイライトプランク」ですよね！！気付いたときめっちゃくちゃ嬉しかったです！！ (2022年7月22日 10時) (
レス) id: 3dc9f6a52b (このIDを非表示/違反報告)
卍エシラ(プロフ) - 紅覇さん» ありがとうございます！ (2020年5月2日 21時) (レス) id: 62414ec622 (このIDを非表示/違反報告)
紅覇 - 悲しすぎて胸の奥がキューってなりました。これからも頑張ってください！！ (2020年5月2日 14時) (レス) id: 6f781d8dfc (このIDを非表示/違反報告)
卍エシラ(プロフ) - 雪鈴さん» これが書きたくて仕方なかったので長くなってしまいました (2020年5月2日 13時) (レス) id: 62414ec622 (このIDを非表示/違反報告)
雪鈴(プロフ) - ……鬱先生、哀しすぎる…ついウルッと来てしまった…｡ (2020年5月2日 13時) (レス) id: 19448fa7ba (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
