【銀魂】沖田隊長、好きって何ですか？【沖田総悟】

空回り　沖田side ページ21

『山崎さんの誤解を解くんですよ！！！』


…Aはそう言うと、そのままこの部屋から出ていってしまった。俺はそんなAの手に、自分の手を伸ばしていた。けれど、ソイツはそれに気づくことなく、そして俺の手はソイツの手を掴むことなく、Aは出ていった。俺の手は中途半端に伸ばされたまま、そうして力なく項垂れるように落ちていった。


……俺は、全部空回りしているのだろうか。最近ふと思う。俺がやってることに意味はあるのだろうかと。そんな漠然とした不安。まるで、思春期真っ只中の不安定な精神のように。寝返りを打てば、先程までAが座っていた場所が目に入る。今頃Aは山崎の所だろうか。


「……」


ぼんやりと、Aの座布団から俺の手のひらへと視線が映る。アイツの手を掴み損ねた右手。いつも刀を振り回しているその手が今はなんだか随分と無力に思えてしまう。


……Aは本音では、俺をどう思っているのだろうか、と。そんなことを思う。嫌な上司、からは抜け出せただろうか……いや、多分それは無理だ。まだ俺の気持ちを告げていない頃に比べたらマシかもしれねぇが、なんせ上司に向かって白い目を向けてくるのだから。その中に、ほんの少しでも、俺への『好き』はあるのだろうか。そんな女々しいことを思ってしまう自分に、嘲笑の笑みが漏れてくる。


……俺がさっき、Aを呼び止められていたなら。
……俺がさっき、Aの手を掴んでいれば。


こんな思いは抱かずに済んだだろうか。いや、きっと俺の中に居座ったモヤツキは消えないのだろう。残念ながら。Aが俺の前に現れて、真選組にやって来た時からずっと、抱えているものなのだから。そんな簡単で単純なことで消えてなくなってくれるものなら苦労はしない。

今はただ、俺をあの丸っこい目いっぱい映して、俺の言動に顔を耳まで真っ赤にさせて、戸惑って狼狽える姿が見られればそれでいい。そうしてアイツの頭の中に、俺だけが居るようになればいい。けれど、いつか、と俺は思う。


…いつか。Aの口から本物の好きを聞ける時は来るのだろうか、なんて。


「…ハッ、バカか」


…俺は鼻で笑い飛ばし、立ち上がる。


…好きにさせるしかねェだろ、と。そう思いながら俺は気晴らしに部屋を出ていき、今日も今日とて賑わう江戸の街に繰り出すことにしたのだった。

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