日常の王子様 -Happiness which rolls daily- 短編集 【テニスの王子様】【ときメモGSシリーズ】

チルドレンハンド ＜滝萩之介＞ 切 ページ12

思えば素直な人だった。
ありがとうもごめんも言える素敵な人だった。


「滝、久しぶり。」

「A。久しぶり。」


その日は雨だった。

折り畳み傘なんて忘れてきてしまった。

少し待てば、雨も弱まるだろうと教室に戻ると人がいた。

あたしの知っている人だった。


「滝、いつからあたしのクラスになったの？」

「なるはずないじゃん。友達からノート返してもらうために来たんだけど。」

「みんな帰っちゃったよ。」

「そうみたいだね。」


それからは会話がなかった。

気まずいなんてことはない。
何を話そうか。
そんなことを考えるのも疲れてしまった。

昔の方がずっと、ずーっとあたしはあなたに優しかった気がする。

いつの間にか冷たい人間になってしまった。


「雨、止まないね。」

「そうだね。もうこんなに暗いよ。」

「電気つけるね。」


真っ暗な教室に雨の音が響く。
激しい雨。

足元が見えなかったから。
もしくは考え事をしてたから。

どちらかは分からないけど、あたしは転んでしまった。


「…何やってんの。」

「転びました。」

「全然変わってないな、Aは。」


滝は眉間に皺をよせて笑った。

全く変わらない笑い方。


あたしは好きだったんだ。
この顔が見たかったのあの時も。

「はい、手。」

「ありがとう。」


あたしは差し出された手を掴んで、立ち上がった。


「ほーんと変わらない。」


そうかな。

きっと、もうその手は恋人として握ることはないんだろうね。

そう思った。


その事実だけは変わらないね。



(変わりたくないと願っていたのに。…図々しいか。)

あとがき→←single ＜柳生比呂士＞ ☆杏雨様リク☆ 甘

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