墓黙り【2j3j】 (ページ8)

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そんなに嫌な思いをして彼女を救っているのに、刀也とAの関係はなにひとつとして変わらない。

いつまで経っても幼馴染。

Aにはとても仲の良い女子がいて、彼女たちは親友だった。

刀也はそこにすら入り込めないのだ。

幼馴染としての期間が長すぎて彼氏なんて以ての外。
歳を重ねる度に己がAのこれ以上近くには入らない事実が刀也に重くのしかかった。

せめて、せめて、親友だとか彼氏だとか、そんな肩書きがなくても、せめて一番彼女の近くにいたい、それだけ。

それだけの一心だったので、刀也はAの親友を屋上から突き落とした。

それは今まで犯したどのひとごろしよりも簡単で、思わず笑いが溢れるほどだった。

類は友を呼ぶということで、Aの親友は毒親育ちかつ暴力振るいの彼氏持ち。

親友ちゃんは随分精神をやられていて、暇さえあれば彼氏に付けられた青痣をボロボロの爪で摩りながら遺書を書くような所謂メンヘラだったので、彼女が屋上から落ちても誰も驚かなかったのだから。

そういえば俺が手にかけた他人の死でAが泣いたのは初めてだなァ。

親友ちゃんの葬式でぽろぽろ大粒の涙を零してえぐえぐ泣いているAの横顔を見て刀也はそう思った。

なんだか可哀想にも思えたけれど、あんな子がAの近くに居てはAの精神衛生的にも良くなさそうだし、人付き合いの苦手なAにとっては刀也が唯一無二の存在になったことは確かだった。

『僕はずっと、Aの側にいるよ』

葬式での帰り道、啜り泣きながら俯いて足を引き摺り気味に歩くAへ、数年越しに同じ科白(セリフ)をかけた。

これで、これで少しは俺のこと、大好きになってくれないかな、

一瞬脳裏をよぎったその思考は、次の瞬間打ち砕かれた。

やっと刀也の瞳を真正面から見つめたAの濡れた瞳には、刀也が今まで誰からも受けたことのないような鋭いするどい憎悪の眼差しがあった。

目の奥底で燃え上がる焔のようなソレがあまりに痛烈で、刀也は思わずAと目を合わせた侭に固まった。

『A、』

そっと声をかければ、Aは口を開いた。

「ぱぱとまま、とぅやくんがやったんでしょ」

いつも通り、それは舌足らずで甘やかなAの口調で、刀也が大好きなものの筈なのに、刀也は耳を塞ぎたくなった。