レッツ・カンフー！【mt】 ページ4
この学校は、嫌、この世界は終わりである。
Aの脳裏にはそんなくだらなくも的を射たナレーションが流れ出した。
シッカリと鍵をかけた教室の窓から校庭を見下ろせば、そこには沢山のヒトがぶつかりながらふらふらと歩いているのが分かる。
マア、人ではないのだけれど。
彼等は皆等しく青褪めた肌をしており、彼方此方の皮膚がべろりと剥がれ落ち、落ち窪んだ瞳は両方とも在らぬ方向を向いている。
もっとイヤなことを言うのであれば、彼等同士がぶつかるたびにばきょばきょと脆い骨が砕ける酷い音が聞こえ、腐り切った肉がべちゃべちゃと音を立てて落ち、ソレはきっと途轍もなく痛い筈なのに彼等は何一つ変わらずまたふらふらと歩き始めるのである。
端的に言って仕舞えば、彼等はゾンビなのだ。
いつも通りで何も変わらない筈のとある一日は、一瞬にして終末の色を纏っていた。
大量のゾンビが学校に押し寄せたのは体育祭の真っ只中で、外校庭に居た殆どの生徒や教師はアッという間に襲われてゾンビとなった。
今校庭にワラワラと蠢くゾンビは元同級生である。
たまたま水筒を取りに教室へ戻っていたAが唐突な悲鳴を聞いてから早三十分。
もう耳を劈く悲鳴は聞こえないものの、聞こえるようになったのは汚く濁点の付いた母音の呻き声ばかり。
こうして一人人間として取り残されたまんま、ブルブルと恐怖に震えながらゾンビになってしまった彼等を窓から見下ろしていたのが、冒頭の話。
もうAの平穏な世界は壊され、自分もゾンビになって死ぬしかないのだと、彼女は絶望している。
周りの生徒が校庭で襲われている間、非情にも慌てて近くにあった段ボールとかパイプ椅子とかで作り上げたバリケードを昇降口の扉へ築き上げたは良いものの、獲物を探してウロつくゾンビたちが直ぐに壊してしまうのは目に見えているのだから。
ガタガタと腐り落ちる手が遠くの扉を叩くたび、Aの中の恐怖心は肥大化していく。
「うぇぇ゛、ぅ゛、どうしよぉ゛、」
思わず泣き声を漏らしたAが、近くの机に置かれた誰のものかもわからない分厚い英語辞典を手にしたその瞬間。
すたーーん！と明朗快活な音が響いて教室のドアが開いた。
余りにも唐突なその侵入者に、Aは驚き慄いて、悲鳴をあげながら手にしたばかりの辞典をドアの方角目掛けて放り投げる。
「イヤ、や、やだぁあ゛！」
『わ、ちょっ、ぇえっ、？』
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作者名：イタリアン | 作成日時：2023年4月14日 16時
