墓黙り【2j3j】 (ページ22)

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【pssi】馬鹿なのは四月だけページ22

「またボコられてんじゃん」

けらけらと声をあげてAは笑ってみせた。そのくせ瞳はチットモ笑っていなくて、ピースサイン君と名乗る彼は彼女の所為で尚更心臓が鉛のように重たくなった。
そのままどこまでも沈んでいってしまいそうだった。

ボンヤリ彼女を見つめていると、不意に白魚のようなうつくしい手がつるつると伸びてきて彼の赤く腫れた頬を滑った。

「ウワ、いったそ〜！キミの綺麗なお顔にも躊躇ないよね、」
ガクくんは。

そう言った彼女の、彼奴の名前を紡いだ言葉の余韻が余りに甘やかで優しくて。
ピスサイ君は腹の奥底で黒々と澱む感情が今にも溢れそうで苦しかった。

『うるっさい、』
「あはは、ごめんね？ほらもう、応急処置してあげるからさぁ」

言いたいことは、言ってやりたいことは沢山あるのに、彼には口を開く勇気がなかった。さっきまではあんなに楽しいエイプリルフールだったのに。

こんな自分も、彼奴＿ガクの拳で付けられた傷も長い爪が食い込んだ痕も、どこまでも自分を見てくれないAも、こんな陽気な春のはじまりも。
全部全部最低で大馬鹿だと思った。

『ね、ねえ、なんなの、Aは』
「え？」
『なんでボクなんかに、こんなことするの？だって、だって、Aはボクじゃなくて彼奴が、彼奴のことが、』

脳味噌の奥でパチンパチンと泡が弾けている。頭が真っ白になっていく。

また、Aが笑っている。

「くく、ふふ、んはは、はははは！はあもお、かわいーねェキミは」

キミ、キミだって。嗚呼、このひとは、一度だってボクの名前を。

不意にキツく抱きしめられた。その生温い感触がAのものであることくらいよくわかっていた。
なんで、抱きしめられているんだろう。不思議と泣きたくなった。惨めだった。

彼女のうなじから、微かに彼奴の家と同じ匂いがした。
それは本当に微かで、ずうっと前のものであることに違いはなかった。彼女のことをよく知っているピスサイ君にしかわからないであろう違和感だった。

『カワイイってなに、ふ、巫山戯ないで。離せよ…！』
「いーよ、私のこと突き飛ばして振り解いて。」

ピスサイ君がそんなことできるはずもないなんて知っているはずなのに、そう言うAは馬鹿ではない。
有耶無耶のまま彼女に抱きしめられる彼の方がよっぽど馬鹿のようだった。

『嘘つき、嘘つき、嘘つき！そうやって、そうやって、ボクのこと』
「あはは、嘘つき？」

ソレ、キミが言うんだ。