墓黙り【2j3j】 (ページ19)

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今日はここ数年で一番暑い日になるでしょう、

去年や一昨年とおんなじように告げるテレビを横目に、ましろはランドセルを背負って(しょって)家を出た。

その科白は聞き慣れたものだったけれど、確かにその日はやけに暑くてしんどかった。

いつもより遅い六時間の授業を終えて、帰路に着く。

何時もは着ないタンクトップから晒されるましろの二の腕にだらりと汗がつたった。

ジワジワジワと鳴き続ける蝉の声とか、真っ赤にぎらつく西陽とか、そんなものがそこはかとなくフキツな気がして不安を煽って、ましろは少し足を早めた。

やけに長い公園までの道。

終いにはちょっぴり息を切らす勢いで公園に駆け込んだましろは、いつものペンキの剥げた滑り台を見上げた、見上げようとした。

その途中で目に入った。

今日はテッペンにはいなかった。

滑り台の終着点に、Aは項垂れて座っていた。
艶のない黒髪がベタついて、だらだら汗を流して、ぽかりと暗い双眸で土を眺めながら呆けている。

なんだか様子の違うAを見て、ましろは心配で慌てて彼女へ駆け寄った。

こんなに暑いんだもん、具合悪いかな、死んじゃわないかなぁ。

『A、ちゃん』

ましろはそぅっとAの顔を覗き込む。

ぴくりと見開いたままの瞼を震わせて、焦点の合わない瞳がましろを捉えたようだった。

睫毛が小刻みに震えている。

ぼうっとましろの顔を暫く見つめていたAが、不意に顔をぺちゃりと歪めた。

次の瞬間、Aの両手がましろの肩を掴んだ。

気づけば硬くてあつい砂の地面に押し倒されていた。

背中の下に少し大きい砂利があるのがわかって痛い。

肩に食い込むAちゃんの長い爪が痛い。

地面とぶつかって脳味噌がぐらんぐらんと揺れた。

立ちこめる陽炎の中で、Aの目だけがよく見えた。

ましろの頬に滴り落ちたつめたい水の感触がした。

ただの汗かもしれないし、ただの涙かもしれない。

Aの手が小さく震えて、あんまりにましろに縋り付くので、ましろはそっとAの首に腕を回した。

汗だか涙だかわからないもので顔中をクシャクシャにして、それでもカワイいAは、猫のようにましろに擦り寄って唇を寄せた。

ましろのファーストキスは、汗か涙のしょっぱい味と、Aの唇の端にぶら下がるピアスの鉄臭さと、染み付いてしまったようなモンエナの風味に塗れて、それでいて酷く官能的なものだった。