黄昏【gk】 ページ14
『ねぇ、A』
耳を撫でるその声は確かに居心地が良かった。
『オレ、Aのコト、好きっスよ』
いつも浮かべる胡散臭くてうすぺらな微笑ですら、心地よかった。
「好きだった、のマチガイじゃないのかな」
私は彼を見ない、見たくない、見られない。
目を伏せたまま、そう告げる。
ガクくんは何も言わない。
思わずそっと目線をあげた。
息を呑んだ。
真一文字に引き結ばれた口元。
チラリと覗く耳朶はほんのり赤く火照っている。
焔の渦巻く熱の籠った琥珀色の双眸が、私だけを映していた。
なによりも欲しくて、なによりも愛おしくて、なにより大好きな彼の瞳。
「ガク、くん」
彼から伝わる熱にあてられて動けない私は気付けば彼に抱きしめられていた。
彼のからりと晴れたお日様みたいな匂いが鼻腔を甘く満たすとき。
タイクツそうに長い脚を組むときの緩慢な動きとか。
制服のシャツの袖を捲るときに浮かび上がる手の筋とか。
楽しそうに歯を見せて笑ってみせるときの犬歯の覗き方とか。
眠たげに髪をくたくたに掻き回すときの、その黄金色の柔らかい燦きとか。
私を見つめるときの、陽だまりみたいに温かくて優しい眼差しとか。
だいすきでたまらない彼の全てが脳裏にひらめいた。
思わず彼を抱きしめ返す。
背中に回される腕の力がより一層強くて、密着している心臓の鼓動が感じられて、首筋に埋められる鼻先とか耳朶に触れる彼の髪とかがくすぐったくて。
涙が出そう。
両腕にもっと力を込めた。
『いいなづけがいるとか、さあ、オレ、気にしないよ』
『オレはただ、Aが好き』
『、Aは？』
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作者名：イタリアン | 作成日時：2023年4月14日 16時
