墓黙り【2j3j】 (ページ2)

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そこに佇んでいたのは、一人の男である。

ズイブン背格好が大きくて、でも足は長いし腰は細いしで、身に纏ったピッチリと身体を締めるようなベストを見れば、彼がホストの一人であることは間違いなかった。

白く染められた髪には一束二束ほどマゼンダだとかビオニーパープルだとかの色に染められた髪も混じっていて、やけにチカチカと眩しかった。

弓形に細められた彼のからりと冷たいモーヴ色の瞳はAをジッと見つめて離さなかった。

『大丈夫って、聞いてるんだケドさ』
『さっきからずぅっとココで座っちゃってるし』

再び彼は口を開いてAに問いかける。

Aは動かない顎関節をなんとかかんとかこじ開けて、返事をしようとした。

会社に居ても喉なんて使わないので、久しぶりに喉の空気を音の形にして吐き出す作業に混乱する。

「ぁ、は、ハイ、」

か細い声で肯定の言葉を伝えるだけでまた疲れて、俯いて黙り込んだAを、ホストの彼は何も応えずにただ見つめ返す。

『どっからどーみても、大丈夫には見えないンやけど』
『ほんとにー？』

「ぁい、」

遂には呂律もままならなずに俯くAを、彼はイロイロ察したような乾いた瞳で見下ろした。

＿おれが、たすけてあげよっか？

不意にかけられたその問いに、Aはようやっと頭を上げて彼の瞳を見つめ返す。

ちゃんと奥底まで見つめたのは初めてかもしれない彼の瞳は、酷く底冷えしていて、それでも確かにAへの憐憫が含まれていた。

けれどその憐憫すらも、例えば雨に濡れて打ち捨てられた野犬を見つめるような、間違いなくAのことを己よりも下等な存在であると認識した上での憐憫で、余り居心地の良いものではなかった。

たすけてあげるって、なにを？

なにから？どうやって？なんでわたしを？

ぐにゃりぐにゃりとAの脳内を幾許かの疑問符が蹂躙する。

どうせ碌な考えもないのだ。
犬を拾って飼うとか、たぶん、そのくらいの気軽さなのであって。

それなのにAの口は勝手に言葉を紡ぎ出した。

「た、たすけて、たすけてくださぃ゛」

ソレは心の底からの救済への渇望の表れであることは間違いなかった。

その救済者が誰であろうとも、どう自分のことを扱おうとも、今のこの境遇から逃げ出せるならばなんでも構わなかったのだ。

「おねがい、しま、す」

その言葉を終に意識を失ったAを、ホスト＿基(もとい)不破湊は黙ってただ見つめていた。