墓黙り【2j3j】 (ページ1)

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救済！【fw】ページ1

Aは酷く疲れ果てていた。

深夜遅くまでの残業だとか、上司から繰り返されるセクハラだとか、一生懸命にあくせく働いても増えることのない給与だとか。

女に生まれたというだけで見下してくる男性部下だとか、女に生まれたというだけで邪険に扱う年配の女性上司だとか、この間たまたまワンナイトしただけの男からの彼氏ヅラのメッセージだとか。

この世の全てに疲れ果てていた。

今日も彼女は夜の街を今にも倒れ込みそうなほどに前屈みになりながら歩いていく。
なんで歩いているのかって、とっくに終電がなくなっているからである。

コンクリートに響くヒールの音さえも暗く、Aの心は締め付けられる。

Aの孤独感を煽る為だけに存在する寝静まった住宅街の静けさと、目の奥がモヤモヤと痛む独特な喧騒を纏う繁華街のネオンの眩しさ。

足取りは徐々に重く、ズルズルと泥濘に絡め取られていくようで、ついにAは近くにぽつりと一本だけ立っていた電柱に背をつけて座り込んだ。

脚はパンパンに浮腫み、元々碌にできてもいないメイクは崩れ、髪はボサボサに乱れ、飾り気のないパンツスーツは皺まみれ。

自らの醜いであろう姿を思い起こせばソレは余りに見窄らしく惨めで、Aは思わず泣きたくなった。
イヤ、なんなら泣いた。

ほぼ自動的に流れ出したその涙は、疲れ果てて瞬きすらままならない彼女の瞳をやっと潤す。

涙を拭うこともせずにぼんやりと体育座りをして虚を眺めているAを、仕事上がりのホストたちが侮蔑を色濃く含んだ白眼で冷笑い(せせらわらい)ながら歩いて行く。

もうそこから動き出すこともできない。

今すぐに家に帰って薄いマットレスで少しでも睡眠を取りたいのに、今すぐに終わっていない仕事を片付けたいのに、今すぐに全てから逃げ出したいのに、まるでそのつべたいコンクリートに根が生えたように自分の体は動かないのだ。

吐き気が堪えられずにう゛ぇ、と嗚咽を漏らしかけた、その瞬間。

「オネ～サンさ、だいじょぶそ〜？」

幾分かの軽薄さを含んだ声音が、Aへ降り注いだ。

なんとか喉元まで込み上げていた胃液を抑え付け、声の主を見上げる。

久方ぶりにネオンの眩しさを目の当たりにしたせいで、彼の輪郭はぼやけ、顔は逆光でよく見えない。

後光の射すまっくろいおおきな影が、Aを見つめていることは理解る。

なんとか目を細めて暫く見つめていると、ようやく声の主の存在が視認できた。