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銀時は目の前の花にレンズを向け、軽快にシャッターを切っていく。写真を撮る彼の真剣な眼差しがAは好きであり、いつも彼女は愛おしそうな目で銀時を見ていた。
不意にイタズラを思いついたAは、携帯の画面を見ているフリをして、彼の服の袖を引っ張る。
「見て見て」と彼女に言われた銀時は、Aの携帯を覗き込んだ。
しかし、その瞬間、携帯のカメラのシャッター音が響く。
画面には呆けた顔の銀時と、口角を上げてニヤけているAが映っており、それを見ては彼女はケタケタと笑った。
『変な顔』
ほら見て、と画面を銀時に見せ、笑いを零す。
銀時はムッと唇を結ぶも、Aに釣られて笑ってしまう。
二人して笑い合った後は、並んで寝転び、蒼い蒼い空を仰いだ。
少しでも動いたら頬が擦りあってしまうくらいの距離に、二人はいる。
こんなに近くにいても、彼と彼女は世間で言う恋人のような関係ではなかった。
彼女は彼に焦がれているのだが、それを自ら表現しようとはしない。銀時も銀時で、気付かないフリが達者であったのだ。
でもAは、これでいいと思っている。
ただ近くにいれさえすれば、何も望まないという恬淡な願いを持っていた。
それが、彼女の本当の欲を押さえつけていたのかもしれない……。
『……自分がしてきた事を色々振り返ろうと思ったら、真っ先にここが浮かんだんだ』
銀時は空を見上げる。そこには大きな満月が雲一つにでさえ邪魔されずに輝いていた。
今日なら、この満月に手が届きそうだと、Aはだらしなく口を開けたまま、思ってしまう。
『……私ね、ようやく見つけたの』
『何を?』
『自分のしたいこととか、やりたいこと』
力強い目を向けているAの瞳は、銀時ではなく、自分の未来を映していた。
それに気付いた銀時は、一つ頷く。
彼女は彼に「ありがとう」と綺麗に笑った。
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さざんか(プロフ) - 更新お疲れ様でした…!そして素敵な作品を本当にありがとうございました!涙が出てきちゃう程良いお話で、凄く忘がたい作品になりました。完結から長らく経ってしまいましたが、出会えて良かったと心から思います。本当にありがとうございました。 (2022年3月13日 3時) (レス) id: 20c7caba78 (このIDを非表示/違反報告)
今日花 - とても良い作品でした。神威が不器用な、けれど優しいところに惹き付けられました。最後は結婚という結果で思わず笑みが溢れます。心に残る作品でした。 (2017年9月19日 18時) (レス) id: 53c7e05c46 (このIDを非表示/違反報告)
ハル(プロフ) - ななさん» ありがとうございます! 大好きとは、勿体無いお言葉!! 神威は難しくて苦戦していましたが、ななさんにそう言ってもらえたので、そんな苦悩は吹き飛びました! コメントと閲覧、本当にありがとうございます( ´ ∀`) (2017年8月12日 10時) (レス) id: 30ed3dcdf9 (このIDを非表示/違反報告)
なな - 完結おめでとうございます!!とても面白くて素敵なこの小説、大好きです^^これからも頑張ってください!応援しています! (2017年8月6日 1時) (レス) id: f0f39f84a9 (このIDを非表示/違反報告)
ハル(プロフ) - RTtk46NmHahsgrzさん» ありがとうございます! こちらの作品、悩みに悩んで進めて行った作品なので、そう言ってもらえてとても嬉しいです。いつかまた、読み返してくださるとありがたいです^^ 他の作品も、もし良ければ読んでほしいです! また好きになってくださいな!! (2017年8月4日 10時) (レス) id: 731ff239df (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:ハル | 作者ホームページ:http://uranai.nosv.org/u.php/hp/harumemory
作成日時:2017年6月19日 20時