叶わないもの/ut ページ6
『初恋は叶わない』
そんな事誰が決めた。少し前の私ならそう言っていただろう。でも、今は。
「はあああ〜」
「何や、そんなため息ついて」
「諦めようかなって」
「例の初恋の奴？」
そうそう、と頷く。でも、今目の前にいるのが『例の初恋の奴』なのだけど。
「僕もね、好きな子ができたんよ」
「へえ、狙ってる子？」
「ちゃうわ。純粋に好きな子や」
あの大先生がねえ〜と余裕ありげに言ってみる。
が、全くそんなものはない。一応どんな子か聞いてみる。
「で、どんな子なの？」
「可愛い子や。後はな、よく頼ってくれるわ」
「具体的じゃないっすねえ」
「なんか嫌やん。友達とはいえ好きな子知られるとか」
そんなに私に知られたくないのか。こいつめ。
知られたくないのなら、これ以上聞くのはやめておくか。
「諦めるのを考えないと……」
「ほんまにええの？そんな簡単に諦めて」
「いいの。そいつが私の事好きじゃないって分かったから」
ん？これって言ったようなものじゃない？鬱は目を見開いていた。
「え？今なんて言ったん？」
「い、いやさっきのは忘れて！帰る！」
「ちょ、待ちいや！」
引き留める意味なんてないのに。どうして希望を持たせようとするの？無言で立ち止まる私に言う。
「Aの好きな奴って僕やろ？」
「そうだけど、大先生は好きじゃないでしょ！」
「僕は一言もそんな事言っとらんけど？」
…………どんな事を言われてもいいように準備をする。
何か決心したような顔で口を開いた。
「……好きや。変な意味じゃなく純粋に」
「どうせこの場を収めるためでしょ」
「僕やったら収めずにそのままにするで？分かるやろ」
「――っ、それくらい分かってるけど」
頭が認めないの、そんな言葉は消えた。抱きしめられている。一気に体温が上がる。
「じ、じゃあ僕帰るから」
「待って」
「ん？何や」
「返事、聞いてないでしょ」
少し前にいる大先生はしまった、という顔をしている。
声を張り上げる距離でもなかったが、大きく
「私は大先生の事好きだから！」
廊下を歩く皆がぎょっとして振り向くくらいの声で答えた。
明日の学校の居心地は決して良くないだろうなあ。
『初恋は叶わない』
そんな事、誰が言った。
___________
どうも、主催のすみこです。
どうやっても私の書く大先生は綺麗な大先生になってしまうんです。
無事、第一回目が終わりました。
第二回目の期日は未定ですが、様々な方に参加頂けたらと思います。
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