初恋も悪いものじゃない/tntn ページ1
「Aだよな？」
ガチャガチャわいわいと騒がしいBGMに突然聞こえてきた男の声
せっかくの休みだから友達と飲む時間に費やそうと思って居酒屋に来たはずなのに、それを妨害する不届きものは誰だ
しかし、この声には聞き覚えがあるし、もう聞きたくないと思っていた
声の主を見上げた。予想通りの人物だった
でも、予想はしていてもどうすればいいか、なんて声をかければいいのか、酔った頭では到底思いつかないし、たとえ酔ってなくても思いつかなかった
微動だにしない私に、目の前の彼はやっぱり覚えてへんか。とつぶやく
覚えてるよ。覚えているから…！早くここから立ち去ってくれ…！
「トントンやけど、このあだ名聞いても思い出せん？」
「…覚えてるよ。」
忘れるはずがない。私の初恋にして黒歴史。人生で一番消し去りたい過去
ちょっと苦笑いで答える私に友人は遠慮したのか、はたまた気を利かせてくれたのか立ち上がり、帰り支度をし始めた
「ごめん、急用を思い出したから帰るね！」
「え！？じゃあ私も…」
「Aはせっかくの再会を楽しんで！店員さん！ここに生一つ！」
後で詳しい話聞かせてね！と言ってにっこり笑い足早に去っていく友人に、これほどありがた迷惑だと思ったことはないだろう
「さて、せっかくだし二人で飲もうや」
彼の笑顔を見て、そういえば大天使っていうあだ名もついていたことを思い出した
――――――――
「え、あれ清水の仕業やったん！？あいつおもろいことするなぁ！」
さっきの杞憂はどこに行ったのやら、何話せばいいのかわからない私に気付いてか、トントンがすごい話してくれる。それにこいつ、なかなかの話術だ…。話し上手でも、聞き上手でもあった。おかげでとても楽しい
「そういえばさ…」
「ん、なに？」
「お前俺のこと好きだったよな。」
今度こそ完全に硬直。記憶の片隅に追いやられていたはずなのに、その話が出るとは不覚だった。話を振った本人はにやにやしながらこっちを見ている
あの時の大天使はどこへ行った。完全に堕天しているじゃないか
「そ、そんなこともあったねぇ」
「下駄箱に手紙が入ってた時、すごいうれしかったんよ」
心の中に黒い、黒い靄が広がる。どす黒くて、消せるならばすぐに、私ごと消したいぐらいの
「好きな子からの…手紙じゃなくてごめん」
自分なんかが告白してしまったという罪悪感、当時好きな子がいるからと二言であっけなく散った初恋。思い出すだけで、涙が出そうになった
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