どうしようもなく好きなの【Kaito.N】

1 ページ1

.





8.8




あの日はわたしも、メンバー誰もが忘れもしない日になったと思う。





お世話になっている先輩たちがデビューの道へと進むことへの嬉しさ、祝福、感動。

あの瞬間の歓声とペンライトの海は今でも目を瞑れば鮮明に思い出すことができる。



それと同時に悔しさ。

わたしたちに何が足りなかったのか疑問、不安が一気に押し寄せた瞬間だった。




終わりがなかった練習ばかりのジュニア生活に、
最近は陽の目に当たることが多くなり、
ほんの少しデビューという光が見えていた気がした。


練習を始めたころは自分と同じ年齢の仲間が、同期が何人もいたけれど、先の見えない不安と迫り来る幼くない年齢が歌手になりたいという希望を遠ざけていった。



もう何人もの仲間の寂しい背中を見送っただろうか。







「なあ、そろそろ休憩しなよ」




音を立てて開いたドアにびくりと肩を上下にさせ、振り返るとそこには海人が。




「もうちょっと」


「そうやってさ、毎日毎日夜遅くまで練習してるじゃん。たまにはゆっくり休まないと疲れ取れないよ？」





鏡の前に腰掛けた海人は隣をトントンと叩き持ってきたドリンクを手渡してくれたので、素直に海人の隣に座った。
カバンの中に入っていた自分のタオルも新しいやつだよ。と差し出してくれて至れり尽くせり。


普段はこういうことは如恵留が言いにくるはずで不思議に思っていると、ここ何日も続いた練習に誰が言っても聞く耳を持たないからとシンメの海人がお願いされたらしい。

Aって俺に甘いからなんでも言うこと聞いてくれるもんね。如恵留にバレてるね。なんてポンポンと頭を撫でながら笑う海人。




　
違うよ。


海人に甘いとかそういうのじゃなくて、海人のことが好きだから。
海人のわがままならば何でも叶えてあげたいとか、海人の前では物分かりよくいたいとか、良いところ見せたいとか、そういう乙女心なんだよ。





メンバー内恋愛禁止とかそういうものは特にはないけれど、気づかれては行けないこの気持ち。

大丈夫。



今日も上手く隠せてる。









.

2→

→ 目次へ｜作品を作る｜感想を書く
他の作品を探す