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『なるせ、チャリの後ろ乗せてよ。』
『お前俺より重いから無理でーす。』
厚ぼったい風が自転車小屋をすり抜ける。
出席番号も同じ、席も隣、委員会も一緒だった俺らが仲良くなるのにそう長い時間はかからなかった。
今思えば多分、惚れていたんだと思う。
友愛と情愛のぬるま湯に浸って、互いに境界線は越えないまま。
『彼女できた。』
Aへのそれに名前が付けられなかった俺は、お互いの好きな食べ物すら知らない奴と告白されるままに付き合った。
なんとなく付き合った恋人とAを選べずに3人で過ごすことが増えて、いつの間にかAとの距離も離れていって。そして――卒業式に、アイツは来なかった。
『Aは?』
『A…ああ柊さん?来れるわけないじゃん。』
Aのいない成人式の二次会。
『は?なんで。』
『知らねえの?お前の元カノが柊さんイジメてたんだぞ。』
家族も友達も、俺すらもここへおいて行くのか。
違う。Aをおいていったのは、他でもない俺だ。
「…気になってる、人と。」
だから再会したとき、次こそ間違えないと誓ったのに。嬉しそうに電話に出た横顔はまごうこと無く俺以外に宛てられたもので。
「え?なるせが外いんだけど。」
なんでよりによってお前なんだよって思ったのは許してほしい。顔も知らない誰かだったならと、あの短い時間に何度も考えた。そうであれば嫌がらせのひとつやふたつしてみせたのに。
「Aー?生きてる?」
「…。」
「弱いのに飲むからだわ。オーイ起きろって。」
俺にとっては、等しく大切な2人なんだよ。厄介だよな。
すっかり大人の顔つきになったAは、ふと見たことのない表情を浮かべるときがある。そりゃそーだ、あの卒業式から今に至るまでのお前を俺は知らないんだから。
「うーん、ダメだこりゃ。俺送ってくわ。」
「…送るも何も隣なんだろ。」
「そ〜なんすよね〜。」
自分が嫌いだ。胸の内で燻るこれの正体を俺は知っている。たとえあの日と同じように行くなと言っても、お前はこっちを振り返りもしないんだろうな。
店の外へ消えていく2人を引き戻す権利なんて、とうの昔から俺にはない。
「どういう偶然よ、ガチで…。」
この体たらくで潔く身を引いた気になっていたなんてとんだ笑いもんだわ。
空いた左どなりは埋まらないまま、俺の時間だけ止まっている。
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哀(プロフ) - Mrs.ぱんぷきんさん» コメントとお祝いの言葉ありがとうございます!お褒めの言葉もとても嬉しいです…!番外編の方もがんばりますので、ぜひよろしくお願いします! (2022年8月27日 10時) (レス) id: e8b342a20d (このIDを非表示/違反報告)
Mrs.ぱんぷきん(プロフ) - 完結おめでとうございます!素敵なお話にドキドキワクワクしまくりました!ぜひまた🐏ちゃんの小説をお願いします!!!Twitterもこれからも楽しく拝見させていただきます!本当にお疲れ様でした!!! (2022年8月26日 19時) (レス) id: 3c19ec381c (このIDを非表示/違反報告)
哀(プロフ) - 涼風さん» コメントありがとうございます!あれって地域差によるものだったんですね…笑これからも自分のペースで頑張ります! (2022年8月11日 18時) (レス) @page30 id: e8b342a20d (このIDを非表示/違反報告)
涼風(プロフ) - ゴミステーションでもしや住んでる地域一緒なのでは…!?と思ってしまいました笑笑内容もとても面白いので、これからも更新楽しみにしています!!!!無理なく頑張ってください😚♡ (2022年8月11日 0時) (レス) @page28 id: d41656e1e9 (このIDを非表示/違反報告)
哀(プロフ) - Mrs.ぱんぷきんさん» コメントありがとうございます!少しでも楽しんで頂ければ嬉しいです。更新も自分ペースでボチボチ頑張ります! (2022年8月7日 20時) (レス) @page23 id: e8b342a20d (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:哀 | 作成日時:2022年7月23日 10時