ふわふわとえがお*文月 海* ページ14
『失礼します。』
誰もいないとわかっていても、ガランとした大きな部屋に声をかける。
私は縁あってこの寮の管理を任されているのだが、今日は全員仕事で出払っているとのことなので、ペットたちの世話を頼まれていた。
『…わかった、わかったから。ご飯あげるから。』
のそり、という擬音が似合う大きな黒うさぎが足にくっついてこちらを見つめている。
私がここに来るのは動物の世話が必要な時くらいなので、餌をくれる人という認識なのだろう。
そっと押しのけて、全員分のご飯を用意するため共用キッチンに入らせてもらう。
鍵付き棚を開けて袋を取り出す。
個性豊かな動物たちのために買い揃えられたそれらはかなりの量で、うっかり調子に乗って持ちすぎてしまった。
ひとつ、落ちてくる。
受け止めようにも重たい袋を足元に落として、万一餌を散らばしたら大変だ。
動けない。
「セーフ!!!!」
突然視界に影がかかる。
『やだ、文月。なんでいるの。』
「仕事休みになったの。そんなことより、無理するなよ全く…」
文月海。
中高の同級生だ。
縁というのは、まぁ彼のおかげというか。
高校を出て就職先を考えあぐねていた時、海がダメ元で紹介してくれたのがここの管理人。
男性アイドルの寮の管理人に女である私が採用されるわけがない、と思っていたのに、都合よく近所に女性アイドルの寮があるものだから採用されてしまった。
普段は女子寮に常駐して、こうしてどうしても必要な時にだけこちらの手伝いをするのだ。
『すまんね、文月くん。今をときめくスーパーアイドルに手間とらせて。』
「はいはい。餌やりなら手伝うぞ〜」
そう言って手際よく餌皿にそれぞれのフードを盛っていく。
『うーん、文月がいるなら帰るわ。怒られそう。』
「…足元のはどうするんです?」
足元。たしかにぬくくて重い。
見おろすと大きな黒い塊がくっついていた。
『捕まったかー…やられた…』
黒田はご機嫌にしがみついている。
「ちょっち待ってろよ、ほら黒田〜ご飯だぞ〜」
見せられた餌皿に目を輝かせて、黒田は文月について行く。
なんと軽快な足取り。
『重ね重ねすまんね。じゃあ、失礼しま…ありゃ、白田ちゃんどうしたの。』
ふすふす、とスリッパの隙間に感じる鼻息に足元を見ると、白い小さな塊があった。
しゃがみこんで撫でるとぷうぷうご機嫌に鳴いている。
「お姫様は帰ってほしくないみたいだな。」
苦笑する彼に甘えて、少しだけ遊ばせてもらうことになったのだ。
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藍華(プロフ) - リコさん» 気づかなくて申し訳ありません…!楽しんで頂けたのなら幸いです。これからもどうぞよろしくお願いいたします。 (2015年4月20日 23時) (レス) id: a2cd4c3dee (このIDを非表示/違反報告)
リコ - 新さんをリクエストさせてもらったリコです!!難しい要求だったのに、すばらしいお話になっていてスゲー!!って思いました。リクエスト通りでおもしろかったっす!ほんとーにありがとうございました☆ (2015年2月28日 12時) (レス) id: c922c4cb93 (このIDを非表示/違反報告)
藍華(プロフ) - *郁夜*さん» 文字数が足りず、コメントなど少なくて申し訳ありませんでした…満足していただけたのなら幸いです。消化遅くなり誠に申し訳ありませんでした。 (2015年1月3日 23時) (レス) id: a2cd4c3dee (このIDを非表示/違反報告)
*郁夜*(プロフ) - 名前は変わってますけど、いっくんをリクしたものです!!書いていただきありがとうございました!とても満足しています! (2015年1月3日 21時) (レス) id: 0fc071909b (このIDを非表示/違反報告)
藍華(プロフ) - まいさん» すみません!2に移行した際に外すのを忘れていました。ご指摘ありがとうございます。 (2014年12月17日 18時) (レス) id: a2cd4c3dee (このIDを非表示/違反報告)
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