出逢った頃のように３ (ページ15)

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暖簾がしまわれた引き戸を恐る恐る開けると、カウンターを拭いていた女将さんが振り向いて、｢あら！｣と声をあげた

｢ﾊｧｯ…ﾊｧｯ…あのっ…彼は…っ？｣

女｢今さっきお帰りになったところなの！｣

｢そ…ですか…｣

．

間に合わなかった…

．

走ってきたせいか、はたまた恋の病のせいか

上手に息が吸えない

女｢コレ。彼からのプレゼントよ｣

｢へっ？｣

女｢今ならまだ間に合うんじゃない？｣

｢あたし…行ってきます！｣

．

女将さんに手渡されたソレを胸に抱えて、あの高級マンションを目指して全速力で駆け出す

スーツにヒール姿のせいで思うように前に進めないけれど、それでも彼に追い付きたい一心で足をフル回転させた

．

もう……走れない……

そう思った矢先、冬の寒さに澄んだ空の下、月明かりに浮かび上がる後ろ姿を見付けた

｢あのっ！｣

名前を呼んでもいいものかわからなくて、でもこのままじゃ追い付けなくて

数十メートル先に居る彼に、ありったけの息を吐き出して声を掛けた

．

深夜の住宅街に予想以上の声が響き渡る

やば……

思わず口を手で押さえると、ノソノソと歩いていた丸まった背中がゆっくりと振り返った

．

間に合った…

安心感から息を大きく吐いて、いつの間にか止まっていた足をまたフル回転させると、自分が思うより衰えていた膝がガクガク震えてドシーンと激しく転んだ

｢いっ…たぁ…｣

よりによってなんで今…！

自分の不甲斐なさにため息をつくと、タッタッタッと駆け寄る足音が聞こえて、目の前に綺麗な手が差し延べられた

大｢立てる？｣