惚れるな危険《紫》

●年の功 ページ21

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「あれ？あーもう、マジか…」




スマホを取り出そうと
スーツのポケットに手を入れれば空振りで。

デスクに忘れてきたことに気付いて
クルッと方向転換して来た道を戻る。




別に急ぐ必要もないのに気が焦って
つい早足になってしまう。







「あれ？なにこれどこ」


エレベーターに駆け込んだものの
違う階のボタンを押したらしく
到着したフロアに降りたら知らない場所。


　

怪訝な顔で見てくる他社の受付嬢に
アハハ、と愛想を振り撒きながらエレベーターへ逆戻り。






は〜〜〜〜落ち着け俺！！

なにしてんだよ！！！







「閉」ボタンを連打しながら小さく舌打ちをする。












ーーーついさっき。

Aを飲みに誘ったら断られました。
　

しかも理由が「デート」なんだから
さすがの俺も穏やかじゃいられない。






週末はどっか飲み行って、そのままどっちかの家に泊まって……
って流れが定着しつつあったから

今日もてっきりそういう予定だと思っていたのに。





女子トイレから飛び出してきたAは
いつもよりちょっとメイクが濃くてイイ女度高めで、

一瞬「俺のために」とか思っちゃったの恥ずかしい。






デートって誰と？

まさか彼氏できた？

今週は会わないってこと？





心なしか浮き足立っているAに質問攻めしたかったけれど
それは許されなくて。


ひらひらと手を振って去っていくあいつをただ見送って
宙ぶらりんな気持ちでデスクに戻った。






「もしかしてラウール……なわけねえか」





姿勢良くカタカタとキーボードを叩くラウールを見つけて
ちょっとだけ安堵する。




俺、嫉妬とかしないタイプなんだけど
もしこいつが相手だったら結構イヤだな。


そんな失礼な思いが伝わったのか、
顔を上げたラウールは「なんですか」と眉をしかめた。





「Aのデートの相手って誰かなと思って」

「え？」

「あいつ今日デートするんだってさ」

「えー？！誰と？！」

「知らねーよ。…はーあ、もう帰るわ」





テンションダダ下がりの俺は
散らかったデスクを片付けもせず

「じゃなー。お前も早く帰れよ」と
ラウールに声をかけて会社を後にした。







…あのとき、スマホをデスクに置きっぱなしにしたのか。






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