きみしかいない 5 (ページ15)

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そんなんしてるうちに他の子に連れてかれても文句言えないからねって。容赦ない言葉を投げかけられて。
想像しただけでズキズキ痛み出した心臓に、重症やなって苦笑いした。

いつまでも逃げてたってどうしようもないことも分かってるけど…いざ康二くんを前にすると体が勝手に逃げちゃうんやもん…

深「早く終わらせなよ。おにごっこ。」

捕まるのも、捕まえるのも、こんなに難しいことやったっけ？

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結局、グルグル考えてても頭がパンクするだけでなんにも変わらんまま。気付いた時には福岡やった。
とりあえず早めに可愛くメイクして貰って…ちょっとでも自信つけて…って考えてたのに。

向「A、」

「っ…」

朝からそれとなく距離を取ってたはずの康二くんが目の前におって。
反射的に逃げた。
だって、無理。
まだアイドルの私じゃないもん。
康二くんが信じてくれて、認めてくれた唯一誇れる私じゃないの。
誰も使ってへんトレーニングルームが見えて、慌てて駆け込んだ。
息が上がって仕方ない。久し振りにこんなゼェゼェなるくらい走ったかも。

「はー…」

誰がライブ前にこんな全力疾走するんよ…
トレーニングルームの端っこで、三角座りをした膝に顔を埋めた。
すばしっこさには定評があったから。
逃げ足だけは速いって言われて来たし。
やからすっかり油断してた。

向「はっ…みつけた。」

「っ…！」

苦しげな声に肩が跳ねて。
思わず後ずさってもすぐに背中に感じる壁。
それもそのはず。
部屋のいっちばん奥の角っこに逃げ込んだんやから。
どうしよう、どうしよう…
康二くんの顔をまじまじ見るのは随分久し振り。
こうして2人きりになったのはいつ以来やろう。
ちょっと待って…って息を整える康二くん。
今やったらきっと逃げれるけど…緊張で体の力がうまく入らんくて、動かれへん。
心臓が痛い。息が苦しい。
いっぱい走ったから？
それとも、

向「やっと…捕まえた」

震える私の指先を柔く包んだ康二くんの手も震えてた。
緊張してるのは、私だけじゃないのかもしらへん。

向「話が、したくて……」

へにゃって笑った康二くん。
それだけで涙が出そうになる。

向「…もう逃げんといて。俺の側におって。
Aのことが…世界で一番、大事やねん」

ずっと逃げてたのがアホみたい。
もっと早く捕まってたら、１秒でも長く、この幸せを噛み締められたのに。