検索窓
今日:3 hit、昨日:18 hit、合計:66,836 hit

ページ38

スマホを取り出して、加藤さんの名前をタップした。数回繰り返されたコールが途切れ、無機質な女性の声が「電話に出ることができません」と言った。


なんだか勝手に足の裏を床につけているのがためらわれるような気がした。
そんな気がしたんだけど、私が取り付けたカーテンだけは、ちょっとだけ触れても許される気がして指先で触れた。張りのある硬い生地。


ちょっと動かしたら、窓の隙間からキラキラする夜景が見えた。

昼間は日光で家の中も家具も傷んじゃうからカーテン閉めとくのがいいと思う。
でも夜は、この高層タワーマンションならカーテン開け放しておいても大丈夫なんじゃないかと思うけど。
ぴったりと閉めてあるカーテンが加藤さんみたいだなってふと思って、会いたくなる。


カーテンの隙間から夜景をじっと見る。
曇った夜空。
月は出ていない。
遠くのビルのてっぺんで規則的についたり消えたりするライトを数える。

加藤さん、帰ってくるかな。

しばらく見たあと、カーテンを元のとおりにぴったりと閉めた。


帰った方がいいのかな、ってリビングの戸に手をかける。

加藤さんがいて、あたたかく懐かしかったこの部屋。
今はよそよそしい表情で私を拒絶しているような気がした。
他人の家なんだから当たり前だよね。


スマホを取り出して、出直す旨を一言書いてメッセージを送った。
帰ろうと玄関に向かう。



玄関を開けたら、ドアが重く感じて戸惑う。
ちょっと手を緩めたら、勝手にドアが開いて、加藤さんが顔を出した。


「……ただいま」
「…………」
「ただいま?」
「……おかえりなさい」

驚いて返事に時間がかかっちゃった私を加藤さんはちょっと笑って、言った。


「……もう、帰るの?」
「お留守中に居座れません……」
「合鍵まで持ってるのに?帰ってきたみたいに懐かしいのに?」
「…………」
「部屋じゃなかったでしょ?」
「……」
「人じゃない?って俺言ったよね。当たりでしょ」


加藤さんはそう言って、私のそばをするりと抜けてリビングに向かっていった。
背中を見送ってぼーっとする。

人じゃない?→←夜20時



目次へ作品を作る感想を書く
他の作品を探す

おもしろ度を投票
( ← 頑張って!面白い!→ )

点数: 10.0/10 (149 票)

この小説をお気に入り追加 (しおり) 登録すれば後で更新された順に見れます
252人がお気に入り
設定タグ:NEWS , 加藤シゲアキ , じぇにー   
作品ジャンル:恋愛
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告

感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)

ニックネーム: 感想:  ログイン

きゃわのすけ(プロフ) - じぇにーさんのお話のゆったりと、じわじわと進む空気感がとても好きです。主人公の心の揺れる様を思いながら、同時に私の心も揺さぶられています。登場する書籍も既知のものだったので、今度読んでみたいと思いました。続きも楽しみにしています。 (2020年1月14日 1時) (レス) id: d7bd95e595 (このIDを非表示/違反報告)
eRu(プロフ) - いつも楽しく読ませて頂いています!私事ですが、実は占ツクで初めて読んだ作品が、じぇにーさんの『キャッチ・アンド・キス』で、物凄く「シゲだー!」と感動しました。これからも応援してます!Twitterをやっていない故、こちらから失礼します (2019年9月23日 19時) (レス) id: 2d1d6afcf3 (このIDを非表示/違反報告)
もか - いつも楽しく拝読しています。いつもと違う不穏な、寂しい空気感が情景描写と相まってとても美しいな、と思いました!転がる岩のような2人のこれからの進展がとても楽しみです。 (2019年9月17日 0時) (レス) id: fc5ce059f2 (このIDを非表示/違反報告)

作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ

作者名:◯じぇにー◯ | 作成日時:2019年9月15日 0時

パスワード: (注) 他の人が作った物への荒らし行為は犯罪です。
発覚した場合、即刻通報します。